『ヤッターマン』85点(100点満点中)
2009年3月7日(土)より、全国ロードショー 2009年/日本/カラー/111分/配給:松竹、日活
監督:三池崇史、原作:竜の子プロダクション、脚本:十川 誠志 出演:櫻井 翔、福田沙紀、生瀬勝久、ケンドーコバヤシ、深田恭子

フカキョンドロンジョは、歴史に残る名ヒロイン

日本の映画界には妙な癖があって、到底実写じゃ成立しないような漫画・アニメ作品ばかり、なぜか好んで映像化する。ゴルゴ13、ルパン三世、デビルマン、そして二十世紀少年……。

その多くは事前に誰もが予想した通り、まれに見る珍作へと仕上がり、ダメ好きマニアの語り草となる。もはや、この国のお家芸といっても過言ではない。

しかし、ヤッターマンの映画化企画までもが本気だったとは、さすがの私も予想だにしなかった。ましてや、興収50億を狙える記録的な大ヒットスタートになろうとは。映画業界は変人ばかりだが、どうやら観客の方も引けをとらぬ猛者ぞろいだったらしい。

玩具店の息子ガンちゃん(櫻井翔)は、ガールフレンドの愛ちゃん(福田沙紀)とともに、ヤッターマンとしてドロンボー一味と日夜戦っている。ある日彼らは、一味が狙うドクロストーンのひとつを発見した海江田博士(阿部サダヲ)の娘・翔子(岡本杏理)と出会う。博士が消息を絶ったエジプトに、ドロンジョ(深田恭子)、ボヤッキー(生瀬勝久)、トンズラー(ケンドーコバヤシ)らが向かったと知ったガンちゃんたちは、ヤッターワン(山寺宏一)に乗って追いかける。

偉大なるマンネリズムの極致たるヤッターマンということで、数々の名セリフからお約束的展開まで、すべてが実写版にも登場。なつかしのゲスト出演など、通常ならわざとらしくなりそうなオマケも、「おお、ここでそれがきたか」と思わせる絶妙のタイミングで配置されている。

明らかにオッサン向けに作られたギャグの数々は、往年のファンにはツボに入ること間違いなしで、笑いっぱなしの楽しい時間がすごせよう。

ヤッターワンが海上を爆走して世界中のどこへでも急行する場面は、アニメでもおなじみだが、それが実写になるとどうなるか。私はこの場面で、腹が痛くなるほど笑った。痛い企画を、痛いものと完全に理解したうえでの映画化。完璧だ。

それにしても三池崇史監督は大物である。これだけの大作だというのに、誰にも気兼ねせず、自由気ままに撮ったような印象すら受ける。

とくに、フカキョンに対する情愛の深さは見ていてはっきりわかるほど。彼女を可愛く撮ることに傾けた監督の多大な情熱は、"ドロンジョが最後の敵の首根っこをつかむ"ショットで見事に結実しているから、ぜひスクリーンで確認してほしい。

深田恭子がドロンジョ役に選ばれた当初は、反対の世論が大きかったように記憶する。だが、冗談のように名前が挙がったアンジェリーナ・ジョリーなんぞより、結果的にはずっとよかった。

私は、今の日本の若手女優の中で福田沙紀(ヤッターマン2号)ほど可愛らしい人はまれだと思っていたが、その福田を蹴散らすほどの魅力を、フカキョンは本作で振りまいている。

というか、残りのヒロイン2名と深田恭子の扱いに差がありすぎて笑える。

たとえば、本来丁寧にゲスト扱いされるべき八頭身美人、岡本杏理なんぞはほとんど汚れ役・お笑い担当。前述した福田沙紀も、オープニングのバトルが終わるとすっかり役目を終えたように忘れ去られてしまう。だいたい主演の櫻井翔さえ、後半以降はほとんどドロンジョの引き立て役だ。

さすがは三池監督、20億円にも、原作にも、ジャニーズにもまったく遠慮しちゃいない。

もっとも、山本正之自らが歌う主題歌を採用するなどツボは押さえてあるから、原作原理主義者でさえも、この映画版は認めざるを得まい。

生瀬勝久のボヤッキーや、エンディングテーマで踊る一味など、ほかにも褒めたい、紹介したい部分は多々あるのだが、これ以上はあえて言うまい。

実写版ヤッターマンは、まぎれもない傑作だから、オジサン方は子供をつれて、安心して見に行ってほしい。春休み映画の、これぞ決定版だ。



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