『カフーを待ちわびて』65点(100点満点中)
2009年2月28日(土)より、新宿バルト9ほか全国ロードショー 2009年/日本/カラー/119分/配給:エイベックス・エンタテインメント
監督:中井庸友 原作:原田マハ 出演:玉山鉄二、マイコ、勝地涼、尚玄、瀬名波孝子

沖縄にあこがれる人にピッタリ

大都市に住むものにとって、沖縄は特別な地である。気候も文化も違うせいか、そこにはある種の別な価値観があるのではないかと彼らは感じている。つまり、カネとはちがった豊かな暮らしがあるのではないかという、漠然とした憧憬の念だ。

それはあながち間違いでもないようで、短期で滞在するはずがそのままいついてしまった、という東京人も少なくない。『カフーを待ちわびて』は、そんな癒しの地・沖縄にあこがれる都会人にすすめたい一本。

沖縄の離島で古い雑貨屋を営む青年アキオ(玉山鉄二)は、愛犬カフーとのんびり暮らしている。ある日、彼に一通の手紙が届く。アキオがかつて冗談で「嫁に来ないか」と書いた絵馬を、神社で読んだという女性サチ(マイコ)が、本当にたずねて来るというのだ。

まるで昭和40年代のような、リアルALWAYS状態というべき個人商店のたたずまい。30円くらいで売ってそうな、昔ながらのアイスキャンデーが溶けない距離にある紺碧の海、貸しきり状態の白浜。傍らにはリードでつなぐ必要がないほど慣れ、ストレスもなさげな大型犬。確かにとんでもなく「豊か」な暮らしである。

そんな地元から出ようとせず、店を繁盛させようともしない無気力な主人公。その暮らしぶりを、さっさと東京に出てビジネスマンとして活躍するかつての同級生が、ヒッキーざまぁ、と罵る場面があるが、本物の東京人からすれば「お前こそバカだよ」と一刀両断されよう。

そんな楽園のような地に、見知らぬ黒髪ロングヘア美人がやってくる。お嫁にもらってください、ご自由に食べて。というわけだ。かいがいしく家事をこなし、伸びきった髪の毛まで切ってくれる。いまどきエロゲにも出てこないような理想妻の登場である。

これがもし東京を舞台にした話であれば、理想妻は恐ろしいメンヘラストカーであり、最後は主人公をチェーンソー片手に追い掛け回すホラーにしかなりえない。だが沖縄ならば、ファンタジックなラブストーリーとして成り立つ。プラトニックなムードも、エロなしでつまらん、とならず、心地よいムードをもたらす。

サチを演じるマイコは、どの角度から見ても正統派の美人。沖縄ははじめてと語っているから、どうやら都会からきたと思われるが、見た目がそうした俗っぽさを超越しているところがあり、どこか謎めいていて興味を引く。魅力的なヒロインである。

サチは幸と書き、主人公の愛犬カフーは現地語で「幸せ」の意味。タイトルも含め、幸せを待ちわびる現代人を象徴するモチーフとなっている。主人公にとっては、ある人物を待つという隠された意味もある。

癒しのユートピアには、しかし自力じゃ食っていけない厳しい現実がある(地方経済の疲弊の問題)。食えないから、わずかな金のためユートピアの住民は自らその本質を捨てさり、楽園は失われていく。その過程の中で、この主人公はどう抵抗し、答えを見出していくのか。

映画としては唯一、音楽が単調でイケてないが、後半のストーリーは二転三転。なかなか楽しめる。都会=悪 という単純な構図は個人的にはいただけないが、都会の暮らしに嫌気がさした人が見に行くのだから、案外それでいいのかもしれない。

エンドロールの後には、かなり長いシークエンスがあるので見逃さないよう。

カフーを待ちわびて [宝島社文庫] (宝島社文庫) (宝島社文庫)
原作小説。第1回「日本ラブストーリー大賞」大賞受賞。映画とは結末が違うそうです。
がちまい家のオーガニックな焼き菓子
幻の沖縄菓子のレシピを再現した本。表紙がすごくおいしそう。


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