『チェ 39歳 別れの手紙』65点(100点満点中)
2009年1月31日(土)より、日劇PLEX他にて全国連続公開 2008年/スペイン・フランス・アメリカ/カラー/133分/配給:ギャガ・コミュニケーションズ、日活 Powered by ヒューマックスシネマ
監督:スティーヴン・ソダーバーグ 脚本:ピーター・バックマン 音楽:アルベルト・イグレシアス 出演:ベニチオ・デル・トロ、カルロス・バルデム、デミアン・ビチル、アキム・デ・アルメイダ

愛と革命の闘士チェ・ゲバラ最後の戦いを描く

キューバ革命を戦うチェ・ゲバラの姿を描いた前編『チェ 28歳の革命』(公開中)は、あまりに説明皆無で初心者お断りなつくり。キューバ史をよく知るジャーナリストは「それでも見てて疲れた」と言い、キューバ政府にパイプを持つほどの、あるゲバラフリークは「(自分は楽しめたが)はたして一般人がついてこれるのか心配になるほど」と私に語った。

無理もない。私に言わせれば、あの前編はこの『チェ 39歳 別れの手紙』、すなわち後編の後付け補足であり、あくまでこちらの満足度をUPさせるための先鋒という位置づけ。

よって、『28歳の革命』だけで必死に何か解釈しようとしている人を見ると、ちょいと気の毒になる。スティーヴン・ソダーバーグ監督が見せたかったものは、こちらにこそあると私は確信する。つまり、後編だけ見るのはまったく問題ないが、前編だけ見るというのはありえない。だから映画会社はせめて、あの前編に来た人には後編の半額チケットでもつけてやったらよかった。

1965年、キューバ革命に成功したチェ・ゲバラ(ベニチオ・デル・トロ)は、政権幹部の地位を捨て突然失踪した。盟友で新たなキューバの指導者カストロ(デミアン・ビチル)は、彼からの手紙を発表。そこには新たな革命の戦いに身を投じるゲバラの決意が書かれていた。ゲバラが向かったのは独裁軍事政権下の南米ボリビア。だが彼の戦いは、相次ぐ裏切りにより、過酷な展開を見せるのだった。

『チェ 28歳の革命』のデジャブともいうべき、苦しい行軍の様子が描かれる。ゲバラは28歳でも、39歳でも、変わらず革命の戦いを続けた男ということだ。

横長のシネスコサイズからビスタサイズに変更されると同時に、記録映像のようだった前編から打って変わって、「普通の映画」となった。リアリティの塊のような前編をみていれば、主人公への感情移入の深さは最初の1秒から最高レベルになっているはず。そんな、"前座終了直後"のような心理状態の観客の前で、普通のドラマ映画を始められる。名手ソダーバーグにすれば、あとは泣かせるのも驚かせるのも自由自在、といったところだ。

彼の演出を支える主演ベニチオ・デル・トロは、むしろ監督以上に本作に入れ込んでいる。プロデューサーにも名を連ね、7年間に及ぶ役作りも行った。カストロをはじめ、関係者に会うため世界中を飛び回った。

満を持して撮影に挑んだ彼だが、ソダーバーグが猛スピードで撮影をすすめるものだから、そうした事前の準備もあまり役立てることができなかったそうだ。デルトロ氏の7年間の苦労は、あわれ革命の泡と消えた。

とはいうものの、映画2本分も彼の演技を見ていると、もうゲバラ本人にしか見えなくなってくる。最期を迎える場面などは、ソダーバーグが前編から蒔いていた種が実ったかのような迫真の演出と相成って、ぐっとくる名シーンとなっている。

ゲバラ好きの人が、1本みるならぜひこちらを。だが100%以上に楽しみたいなら、できるだけ近い日に前編を見てから、本作に挑んでほしい。



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