『愛のむきだし』45点(100点満点中)
2009年1月31日より、ユーロスペース他にてロードショー 2008年/日本/カラー/237分/R-15/配給:ファントム・フィルム
原案・脚本・監督:園子温、主題歌・挿入歌:ゆらゆら帝国、アクションデザイン:坂口拓、アクション監督:カラサワイサオ 出演:西島隆弘、満島ひかり、安藤サクラ、尾上寛之
上映時間4時間の純愛叙事詩&パンチラ
「自殺サークル」(02年)、「紀子の食卓」(05年)など、作家性を"むきだし"にする作品群で知られる
母を早くに亡くし、神父の父(渡部篤郎)と暮らすユウ(西島隆弘)。ところが、ある事件によって温厚な性格を一変させた父は、ユウを虐待しはじめる。教会での懺悔を日々強要されるようになったユウは、いつしか父親に告白するための"罪"をつくるため、わざと女性の股間の盗撮を繰り返すようになる。
この4時間のドラマには、様々なテーマというか要素が盛り込まれる。父と子の、というより親と子の愛情。その不足が引き起こす異常。宗教と癒し、そして愛。
中心となるのは主人公ユウと2人の女。それぞれの章で、彼らの生い立ちと相関関係がモノローグと共に描かれていく。こうした語り部の定期的な変更をはじめ、園子温監督は色々なテクニックを駆使して、長大な上映時間を体感させぬ工夫を行っている。筋書きも演出も、支離滅裂に爆裂しているようにみせて、実際は適度なコントロールを効かせている。
ラヴェルのボレロやベートーベンの交響曲第7番といった長い曲を延々と流しながら、まるで映画の予告編のような凝縮感あふれる編集で高速にドラマを展開していく。これだけの上映時間があるからこそ出来る、贅沢な手法を味わえる。
神父による虐待、アクロバットアクションが笑えるパンチラ盗撮、新興宗教の登場と洗脳、女子高生緊縛監禁、勃起不全の男子高校生、AV会社の面接、現役女子学生による教室内銃乱射事件、レズビアン・セックス等々……。
いったいどういうストーリーを組めば、そんなハチャメチャなエピソードを詰め込めるのかという内容だが、これらは実話に基づいていると冒頭にメッセージが出る。
監督が語るその「元となった実話」は、確かにそれだけ聞いても面白い。映画にしたくなる気持ちも、わからぬでもない。
ただ、そういうネタはすべてが作り物であるフィクションの世界では、えてして自立できない。要するに、なんでもありの世界でなんでもありのストーリーをやっても、観客は驚きも感心もしない。
虚構の世界にまずは現実感を構築し、そこに配置してこそ突飛な内容も生きてくる。だが、この映画はそうしたプロセスを(あえて)踏んでいない。だから、冒頭にはエンタテイメントと書いたものの、これを万人にすすめる気には、まったくなれない。めくるめく不条理&変態ワールドに酔いしれ、そこから各自、何かをつかみとって帰りましょう、という映画だ。
主人公とその運命の女性の関係を見守り、やがて翻弄するコイケ役・安藤サクラが好演。猛烈な不快感を感じさせるその不気味な存在感は、22歳という年齢からは想像できないほどの迫力。237分間は長いが、彼女が観客を引き込む原動力となっている。