『マンマ・ミーア!』60点(100点満点中)
Mamma Mia! 2009年1月30日(金)より、日劇1ほか全国ロードショー 2009年/アメリカ/カラー/108分/配給:東宝東和
監督:フィリダ・ロイド 製作:トム・ハンクス、リタ・ウィルソン、ビヨルン&ベニー 出演:メリル・ストリープ、アマンダ・セイフライド、ピアース・ブロスナン、コリン・ファース、ステラン・スカルスガルド

ABBAの楽曲を使ったミュージカル映画

日本公開の時期が世界でもどん尻の方、ということもあり、この映画最大の宣伝文句は「ミュージカル映画史上、もっともヒットした作品」ということになっている。わが国でも劇団四季の公演が人気を博しているとおり、原作ミュージカルは様々な国で広く受け入れられている。映画化にかかる期待は大きいものがあったわけだが、結果は予想通りの快進撃といったところだ。

ギリシャの美しい小島、カロカイリ島で小さなリゾートホテルを営むドナ(メリル・ストリープ)は、女手ひとつで育てた一人娘のソフィ(アマンダ・セイフライド)の結婚式を明日に控え、準備に忙しい。一方ソフィは、「バージンロードを父親と歩く」夢をかなえるため、ドナが語ろうとしない父親の正体を調べていた。母親の古い日記からその候補を3人に絞ったソフィは、ドナに内緒でなんと全員を結婚式に招待してしまう。

きらきらと輝くエーゲ海をバックにヒロインが「Honey Honey」を歌いだすと、観客の幸福感はのっけから最高潮。この曲を歌うアマンダ・セイフライドが魅力的な声質で、アレンジもノリがよく、アバのオリジナルを凌駕するほどイイ、と感じさせる。舞台となる架空の島(ロケ地はスコペロス島)の景色がまた、この世のものとは思えぬほど素晴らしい。

原作のミュージカルと同じく、ABBAのヒット曲のメロディをふんだんに使ったこの映画版。70〜80年代のディスコシーンを知るものにとっては、観客席で思わず踊りたくなるような、たまらない構成となっている。

個人的にはABBA最高傑作と思う『チキチータ』や、代表曲『ダンシング・クイーン』を惜しげなく投入する前半〜中盤は、文句なしに楽しい。オーバーオールの作業着姿で踊り歌うメリル・ストリープも、この役が長年の念願だったというだけあり、いかにも楽しそうで、かつチャーミングだ。

とはいえ、そんなスタートダッシュの激しさから危惧したとおり終盤は減速、ラストで失速といったところ。

ゴージャスな役者と映画ならではの素敵な風景の中、abbaの楽曲を楽しむというコンセプトだから、筋書きはどうでもいいようなものだが、これがなんとも難ありで、観客の幸せムードをスポイルする。

Change! の時代だから時流には合っているのかもしれないが、この登場人物たちは大事な決断をコロコロ変えすぎで、ついていけない。中でもピアース・ブロスナン演じる父親候補の変節ぶりには唖然。ノー天気に踊り狂うには、キャストの顔ぶれも重い。植木等なら許せても、007じゃ厳しい。

個人的に一番解せないのは、ヒロインの決断。物語上の論理としてはわかるが、どうしても感情的な面で納得できない。誰が見たって地上最高のロケーションでそんなコト言われてもねぇ、と思う。

ともあれ、映像&音楽の快楽度という点では、平均を上回る要素が満載。ABBA世代の人なら、見ておいて損ということはあるまい。



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