『NIGHT☆KING ナイトキング』75点(100点満点中)
2009年1月10日(土)より、 Q-AX CINEMA(渋谷)レイトショー 2008年/日本/カラー/92分/配給:GPミュージアムソフト
監督:藤原健一 原作:倉科遼 画:河島慶 脚本:中井邦彦、桑原周平 出演:いしだ壱成、吉井怜、佐野大樹、千原せいじ(千原兄弟)

大笑い必至のホスト業界コメディ

愛田武氏といえばホスト王。歌舞伎町の業界勢力図を書き換え、ビジネスの健全化にも貢献したという、テレビ番組等でもおなじみのカリスマ社長だ。そんな彼の伝記映画『NIGHT☆KING ナイトキング』は、ホストビジネスの裏側を興味深く見せるコメディ作品。しかもなかなかの傑作で、ホストをテーマにした実写映画としては、相当面白い部類に入る。

昭和43年。女好きがたたってトラブルを巻き起こし、会社をくびになった榎本武(いしだ壱成)は、叔父のコネでホストに転職する。趣味と実益を兼ねる楽勝ジョブとなめていた榎本だったが、実際は実力がなければ収入ゼロという壮絶な格差社会。派閥争いやイジメがはびこる殺伐とした職場であり、ただ女が好きなだけで勤まるような仕事ではなかった。

AV女優やお笑いタレントがキャスティングされ、見るからに低予算Vシネマ臭がする一品だが、これが意外な掘り出し物。なにしろギャグが切れているし、ホスト業界という非日常的のトリビアを見られる楽しみもある。

何より映画作品としては、キャラクター造形に優れている。オカマのダンス教師や大口たたきの先輩ホスト、そして主人公がまだベッドのセールスマンだったころ、営業にきた彼と浮気してしまう欲求不満の主婦等々。脇役みなが駄目人間の素質を持ちながら、キラキラと輝く人間味に溢れている。

その主婦が、その後ホストとなった彼の前に重要な局面で再登場する場面などは、思わず胸が熱くなった。よもやB級ホストコメディーで泣かされるとは。

なにより、主人公に魅力がある。ホストをなめていた自分の浅はかさを知った後、それでもあきらめずダンスのステップを勉強したり時事問題を覚えたりなど、地道に努力を重ねる。目の前にある仕事に必死にくらいついていく。その真摯な姿からは、労働について、忘れつつあった大事な何かを学ぶことができる。

そんな彼が、持ち前の仲間思いの人柄で、他人を蹴落とすのが当たり前だった職場の空気をも変えていく展開は、とても気持ちがいい。

いま、労働者は毎日を生き残るのに懸命だ。そんな世の中の空気に『NIGHT☆KING ナイトキング』はピッタリとマッチする。日比谷公園の派遣村の村長さんは、『ショーシャンクの空』などではなく、この作品をこそ、集まった人々に上映してやるべきだった。本作こそ、心が折れそうになっている人々を、真に温かく励ましてくれる映画だ。

しかも、AV女優として立派にひとり立ちした範田紗々の、硬そうな巨乳があらわになる素敵なラブシーンまでついている。エンディング曲(「Lazy」Jack Spiral Crow)もやたらと良い。まったくもって、満足度の高い優秀なエンタテイメントである。



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