『ファニーゲーム U.S.A.』1点(100点満点中)
FUNNY GAMES US 2008年12月20日(土)より、シネマライズにてロードショー 2007年/アメリカ、イギリス、フランス、オーストリア、ドイツ//111分/PG-12
監督・脚本:ミヒャエル・ハネケ 撮影監督:ダリウス・コンジ 出演:ナオミ・ワッツ、ティム・ロス、マイケル・ピット、ブラディ・コーベット
絶対に見てはいけない映画
品のよさげな夫婦と幼い息子がドライブをしている。車内の3人は、クラシック音楽の曲名あてで仲良く遊んでいる。微笑ましいその様子は、しかし激しいパンクロックによって突然中断させられる。そこで映画のタイトルが表れる。
マスコミ向け完成披露試写会でこのオープニングを見て、私は心底ゲンナリとした。またあの『ファニーゲーム』を見なくてはならない。こんな職業に就いていなければ、二度と見ることはなかったであろう作品。ミヒャエル・ハネケ監督がセルフリメイクなんぞしなければ、永遠に避けていられたはずなのに……。
湖畔の別荘に着いた一家は、ほどなく隣家から若者二人の訪問を受ける。ところが応対した妻(ナオミ・ワッツ)は、「卵が切れてしまったので貸してほしい」と語る青年のひとり(ブラディ・コーベット)と、些細な理由で口論になってしまう。
史上最高の防犯啓蒙映画にして、卵は余分に買っておきましょうとの貴重な教訓を得られる作品。戸締りの大切さと、見知らぬ人へは応対しないという、くらしの常識を得られる点で、誰にとっても多少は存在価値のある一本である。
オリジナルと寸分たがわぬセットを組み立て、構図も台詞もほぼ完璧に再現されたこのリメイク。舞台を世界一暴力的な国家たるアメリカに移し、それを明言することで、きわめてタイムリーな、メッセージ性の強い、そしてわかりやすい一撃とした。
ナオミ・ワッツら一新されたキャストは、オリジナルに引けをとらない安定した演技で、文句のつけどころはとくにない。ピーター役ブラディ・コーベットが少々細身であるため、一部セリフが成立しない部分があるが、それでも台本を変えないのだから、ミヒャエル・ハネケのキャスティングに対する自信は相当なものだ。
さて、サディスティックな若者二人の手で一家が体験する悲劇は、途中退場者が出てもまったく不思議ではないほど激烈なもの。これを見ているのは本当につらいし、キツい。
そう、『ファニーゲーム U.S.A.』は、監督が観客に向かって暴力を振るうという、とんでもない映画なのだ。
つまり、暴力の本質を、私たちに暴力を振るうことで教えてくれる、ありがた迷惑な作品というわけである。当然のことながら、暴力を正義の衣で飾り立てるハリウッドのエンタテイメント業界、しいてはアメリカ政府そのものに対する皮肉も込められている。
本作品は、見ているときには気づきにくいが、暴力シーンでの直接描写はほとんど行われていない。別に心優しい監督がこちらに配慮してくれているわけではなく、その方が観客にとって後味が悪く、余計につらいものだからだ。
とはいえ、こうした演出にはそれ以上に重要なメッセージがこめられている。それは、ただひとつ直接描写される暴力シーンがいったいどこにあるか、誰が誰に振るうものかを考えてみればすぐにわかるだろう。
『ファニーゲーム U.S.A.』は、暴力の本質をゆがめ、ノーテンキな消費財にしてしまう他のハリウッドムービーに比べれば、そんなわけではるかに良心的な映画作品ということができる。個人的な見解を言わせていただければ、この映画こそ、100点満点にふさわしい大傑作というほかない。映画芸術を深く理解したい人は、一度は見なくてはならない。
だがしかし、それ以外の人にとっては、なにも無理してこんな凶悪な映画をお金を払って見る必要はない。というより、絶対に見ない方がよろしい。
そんなわけで、心臓の弱い人や妊婦さんなど、精神力の弱い人々がかわいらしいタイトルにつられて間違って映画館に迷い込むことがないよう、あえて1点をつけさせていただきたい。