『ワールド・オブ・ライズ』70点(100点満点中)
Body of Lies 2008年12月20日(土)より、丸の内ピカデリー1ほか全国ロードショー 2008年/アメリカ/カラー/128分/配給:ワーナー・ブラザース映画
監督・製作:リドリー・スコット 脚本:ウィリアム・モナハン 原作:デイヴィッド・イグネイシアス 出演:レオナルド・ディカプリオ、ラッセル・クロウ、マーク・ストロング、ゴルシフテ・ファラハニ
ディカプリオがアラビア語を駆使するスパイを好演
『ワールド・オブ・ライズ』は、中東に潜むテロリストの親玉を探るCIAの作戦を描く本格政治アクション。この手の社会派ムービーは、いかにタイムリーであるか、または時代を先取りしているか、新しい視点を与えてくれるかが大事な評価点となる。
アラビア語を駆使し、イラク社会に溶け込んでいる若きCIA局員フェリス(レオナルド・ディカプリオ)。現地の風習を理解・尊重する彼に対し、直属の上司ホフマン(ラッセル・クロウ)は「中東は人の住むところではない」とうそぶくような男。安全な本国から電話一本で部下をこき使うくせに、献身的な現地協力者でさえ必要とあれば平気で切る冷酷さを持っていた。
長年追うテロ組織のリーダーをなかなか探り当てられない彼らだったが、ある手がかりからホフマンはフェリスにヨルダン行きを命令。そこでヨルダン総合情報部(GID)の局長ハニ・サラーム(マーク・ストロング)の協力を得よという。
サヴィル・ロウのスーツに身を包み、シルクのポケットチーフも欠かさない。一分の隙も見せぬ紳士然としたハニは、「私に嘘をつくことは絶対に許さない」と語る。さながらオシャレ極道とでもいうべきキャラクターで、「嘘なんて当たり前、味方だって騙すよフフン」のホフマンとはまさに正反対。仁義をなにより重視する、厳格なイスラムの男といった雰囲気だ。
この二人のお偉方に挟まれたフェリスはなかなか苦しい立場だが、それでも甘さを見せず、プロらしいふるまいに徹する。現場を無視したろくでもない裏工作で作戦を台無しにするホフマンに不満はあれど、フェリスは彼の部下。そのカリスマに惹かれつつあるハニさえも、立場上、騙し利用しなくてはならないのだ。レオナルド・ディカプリオは徹底した役作りと見事な演技で、この人物を魅力的に見せてくれる。
ハイテク無人偵察機や衛星などシギント頼りのCIA上層部、主人公が途中で恋をする相手が米国にとって敵国のイラン人……等々、思わせぶりな要素がいくつも見られる。ただ、それらが示唆する本作の主張はことごとく古い。冒頭に書いた「時代性」については、本作からは何の新味も得られない以上、低評価ということになる。
ただそれでも面白く見られた理由は、リドリー・スコット監督の手腕による。
本物にこだわる彼の作風は、まずはリアルな戦闘場面にはっきり表れている。さらには、スパイにしては少々やさしすぎる主人公や、前出のオシャレ極道といった極端なキャラクター造形にさえ、違和感を感じさせない。SFだろうが現代劇だろうが、彼が撮るとインチキぽさがない。
そして脚本面にも、そのこだわりを見る事が出来る。それはテロ集団のアジトで、ある諜報員に起こるいくつかの出来事。
ここで観客は、テロリストがCIAの持つ情報や人脈に何の興味も示していないのを見て多大なショックを受けるようになっている。その場面は役者たちの迫真の演技もあって、とても恐ろしいものだが、このショッキングシーンがあるからこそ、ラストシーンの"ホフマンの命令"に現実味と説得力が生まれる仕組みだ。
こうした細部にいたる丁寧な心配りによって、社会派映画としては時代遅れ感がありながらも、『ワールド・オブ・ライズ』はなかなか面白いアクションドラマになっているのである。