『劇場版MAJOR メジャー 友情の一球(ウイニングショット)』85点(100点満点中)
2008年12月13日(土)より、全国東宝系ロードショー 2008年/日本/カラー/80分/配給:東宝
監督:加戸誉夫 原作:満田拓也(小学館刊 週刊少年サンデー連載中) 脚本:土屋理敬 声の出演:くまいもとこ、森久保祥太郎、大浦冬華、釘宮理恵
テレビアニメ映画化としてはまれに見る成功例『メジャー』
NHKで放映している野球アニメ『メジャー』は、求心力の強い作品である。
ハイビジョンの鮮明映像の美しさもさることながら、主人公吾郎のキャラクターがいい。いつでも迷いなく突っ走り、不屈の心と陽気な性格で現実の壁を打ち破る姿は、やや大げさかもしれないが今の日本人すべてにとって新鮮で、ある種の憧れすら感じさせる。
原作漫画を知らずとも、あるいはシリーズの途中からたった一話だけ鑑賞したとしても、こちらを瞬間的に魅了するだけのパワーがある。くまいもとこや森久保祥太郎といった声優たちの、安定した演技も心地よい。今回は、待望の劇場版となる。
アメリカ球界で夢を追い続ける茂野吾郎(声:森久保祥太郎)が、久々に帰国することになった。機内で彼が思い出すのは、かつてのクラスメート古賀恵(声:蓮佛美沙子)の名前。少年時代の一時期を過ごし、自身がサウスポーに転向する契機となった九州・福岡へと吾郎は向かっているのだった。
この先のほとんどが回想シーン。つまりテレビ放映でいうと第一シリーズと第二シリーズの間。吾郎が横浜から福岡へ、プロ投手である父親の移籍に伴って引っ越したその先での物語となる。
彼は一人も血がつながっていない特殊な家庭環境下にいるが、その良好な関係、少年ながら状況をよく理解した距離のとり方は、心地よく序盤で提示されていく。この劇場版から見る人でも、すんなり作品世界へ入っていける。
死んだ実父への愛と感謝、新しい父母との強い絆、転校先の同級生、チームメイトとの友情をバランスよく描きながら、リトルリーグ地区大会でのライバルとの激闘を大きな見せ場に持っていく。
これぞ野球映画の鑑というべき王道の展開で、大いに見ごたえがある。
とくに試合展開の巧みさは特筆に価する。プロ野球と違い、小さな流れの変化で二転三転する少年野球の醍醐味を、上手に物語に組み込み、抑揚をつけていく。アニメとはいえ、試合場面にリアリティがなければ、ここまで野球好きをひきつけることはできないだろう。
とくに最後の試合、3回の時点で吾郎が続投をあきらめた後の流れにはぐっときた。破滅の予感を感じさせつつ、主人公の選択に説得力を持たせる演出には、深く感動した。男の人生には、何があろうと前に進まねばならぬ瞬間があることを、この映画は教えてくれる。
ほかにも感涙ポイント多数。ラストの吾郎の台詞も決まっているし、エンドロールの趣向も気が利いている。テレビアニメの映画化としては例外的なまでに完成度が高い。今年の冬、父子で見るならこれで決まりだ。