『トロピック・サンダー/史上最低の作戦』70点(100点満点中)
Tropic Thunder 2008年11月22日(土)より、丸の内ピカデリー1他全国公開 2008年/アメリカ/カラー/107分/配給:パラマウント
監督:ベン・スティラー 脚本:イータン・コーエン、ジャスティン・セロー 出演:ベン・スティラー、ロバート・ダウニー・Jr.、ジャック・ブラック
90億円かけたバカ映画
まず最初に言っておきたいのは、『トロピック・サンダー/史上最低の作戦』にゲスト出演しているある大物スターを、各媒体の映画紹介欄がこともなくバラしているのはいかがなものか、ということだ。本人もキャリア最高の怪演を決め、ベン・スティラー監督も最後の驚きとしているのだから、たとえすぐにわかってしまっても内緒にしてやるのが粋というものだと思うのだが。
何を書くかより、何を書かないか(隠すか)に頭を悩ますのが映画紹介の鉄則と考える私としては、そうしたレビューを見るたびに、読者が興味を失わないか心配になる。
ベトナム戦争の英雄の回顧録が戦争アクション映画になることに。落ち目のアクションスター、ダグ(ベン・スティラー)は、この主演に再起をかけていた。下ネタ芸人のイメージを払拭したいコメディアン、ジェフ(ジャック・ブラック)や、黒人役をやるため肌を黒く整形手術するなど、行き過ぎた演技派で知られるカーク(ロバート・ダウニー・Jr)も加わり、撮影は順調に進むに見えたが……。
やがて暴走した原作者と監督により、出演者一同は実際の紛争地帯にヘリで連れて行かれる。そして本人たちは映画撮影と思い込んだまま、本物の戦闘に巻き込まれていくトンデモストーリーだ。
このお馬鹿映画に、90億円も製作費をぶっこんだというのだから凄まじい。当然ながら、戦闘シーンはド迫力。軍事アクションとして見ても一流品だ。その一流映像で、あんな作品やこんな作品の名場面をパロディにするのだから、呆れ笑いをするほかない。なにしろ、下手すりゃオリジナルより出来がいいのだ。
映画撮影の風景は、ハリウッドならありえるかも、と思わせる舞台裏ギャグの連続で、映画好きを笑わせる。
もっともそうしたギョーカイへの風刺は抑え気味。そもそも、この映画の存在じたいがいかにもハリウッドらしい。見終わった後、私はそう感じた。
むしろ毒が強いと感じるのは、いやにリアルな特殊メイクによる直接的残酷描写。その手に弱い女性などは、十分気をつけたほうがよろしい。日本人ならドン引き確実なので、日本版の予告編だけモザイクをかけたという、シャレにならない話もある。
一級のアクション映画の体裁をとりながら、ありがちな展開を崩して笑わせる。アクション部分がしょぼかったらこうした笑いは成立しない以上、これだけの大金をかけた甲斐もあったというべきか。個人的にはもっとバカ方面へ突き抜けてくれるかと期待したが、意外と無難な出来。もう少し何とかできそうな気もするのだが。
それでも、バカ金をつぎ込んだギャグ映画として、一見の価値はある。ベトナム戦争映画を一通り見た人、最近の米ショウビズ界にそこそこ詳しい人がみれば、さらに楽しむことができる。