『イーグル・アイ』95点(100点満点中)
EAGLE EYE 2008年10月18日(土)より、丸の内ピカデリー1ほか全国ロードショー 2008年/アメリカ/118分/配給:角川映画、角川エンタテインメント
製作総指揮:スティーブン・スピルバーグ、エドワード.L.マクドネル 監督:D.J.カルーソー 出演:シャイア・ラブーフ、ミシェル・モナハン、ロザリオ・ドーソン
スピルバーグ10年の構想を映画化
『イーグル・アイ』を見終わると、ぐったりと疲れる。アドレナリンだかエンドルフィンだか知らないが、脳内が過剰に活性化されたせいで、この映像体験から開放されたとたん、消費カロリーのあまりの多さに気づく。
コピー店のしがない店員ジェリー(シャイア・ラブーフ )は、突然理解を超えた出来事に巻き込まれる。覚えのない大量の武器や預金。大混乱のさなか、突然かかってきた携帯電話の主は、「30秒後にそこから逃げなさい」と忠告してきた。
ここから怒涛の巻き込まれ型サスペンスが開始される。
監視カメラや街の電子広告など、ネットワーク上のあらゆるインフラを利用した「携帯の声」は、ジェリーに的確な指示を与えながら、どこかへ導こうとする。
中途半端にハイテクに詳しい現代人は、「こんなことが現実に可能なのか」「いや、多少映画的な誇張はあるけど、出来なくもないかも」と、様々なシミュレーションを脳内で繰り広げながら、ギリギリのリアリティを綱渡りするスピルバーグ(および監督のD・J・カルーソー)の術中にはまっていく。頭をフル回転した……ような気になれる、抜群に面白いエンタテイメントだ。
とはいえ、アイデアの着想源がきわめてわかりやすいため、そこそこ映画を見てきた人たちからは、「パクリ」だの「新味がない」だのといった批判を受けやすいだろう。
このあたりは評価の分かれるところだが、私はたいした問題ではないと考える。確かにどれにも似ていない映画はすばらしいが、人類はもう100年以上も映画を作り続けている。こうした定番ジャンルにおいて新種を見つけることは、ほとんど不可能なのであって、毎回作り手にそれを求めるのは酷というもの。
大体、たかだか1800円でこれほどの大スペクタクル、興奮を味わえるのだ。ここは素直に楽しんだほうが勝ちだ。
いつも完璧な情報分析のもとに、ああしなさいこうしなさいと電話をかけてくる謎の女性。そんなに完璧なら、ギリギリ10秒前になって警告を寄越すのはやめてくれと言いたくなるが、おかげで映画は面白くなった。融通の利かない天才熟女とは、私のような年上好きにとっては、なかなか味わい深い萌え要素である。
個人的に気に入ったのが、米空軍全面協力で撮影された無人機MQ-9によるピンポイント爆撃の場面。これぞ一方だけが死んでいく、新しい戦争の姿。読むと見るでは大違いの、衝撃のシークエンスであった。
こうした現実兵器はもちろん、スーパーカミオカンデをモデルにしたと思しき大型コンピュータの造型など架空の部分も、近年まれにみる美しさと現実味を兼ね備えたもの。まさに眼福。
後半のストーリーは、リベラル映画人が作ったものらしく現政権への皮肉がたっぷりで、政治ネタが好きな人をニヤリとさせる。何しろタイトルがいい。そして、テロでやっつけるよりは、選挙にいったほうが穏やかでいいやと誰もが無意識下に刷り込まれるように作ってある。まさに大統領選の年にふさわしい映画で、私はさりげなくこうした仕組みを入れ込む作り手の大胆さに深く感心した。
日本人としては残念ではあるが、どの角度から見ても、ハリウッドにはとてもかなわないと圧倒された。アメリカ映画の凄みを存分に味わえる、この秋のイチオシである。