『私がクマにキレた理由(わけ)』80点(100点満点中)
The Nanny Diaries 2008年10月11日(土)より、日比谷みゆき座他にて全国ロードショー 2007年/アメリカ/106分/提供:博報堂DYメディアパートナーズ・ショウゲート 配給:ショウゲート
監督:シャリ・スプリンガー・バーマン&ロバート・プルチーニ 出演:スカーレット・ヨハンソン、ローラ・リニー、アリシア・キーズ、クリス・エヴァンス

NYセレブママの、どこか変なライフスタイル

ロマンティック・コメディの良し悪しについて、主演女優のしめる割合はとても高い。女優じたいが魅力的かどうか、演じるキャラクターに共感できるかどうか。観客の性別を問わず、それだけで6割がた決まってしまうといっても過言ではない。これは、私だけが提唱する定説である。

庶民の娘ながら人類学を学び、エリートコースに乗るかと思われたアニー(スカーレット・ヨハンソン)は、ゴールドマン・サックスの面接で大失敗して就職戦線から脱落。ナニー(平たく言えばベビーシッターのこと)のバイトをしながら自分探しをはじめることに。ところがニューヨークのセレブママたちの傲慢不埒な態度と、どこかおかしい子育てに、アニーの上流階級観察日記は日増しに熱を帯びていく。

この一風変わったコメディの主演女優スカーレット・ヨハンソンは、私が思うに25歳前後の女優の中では世界一だ。誰もがひと目で覚えられる顔だちに、不自然に絞っていない体、そして人懐っこいムード。間違いなく、地球上で一番魅力的なぽっちゃり系といってよい。

この映画の中では、イケメンの前でパンツ丸出しのみっともない姿をさらすなど、あくまで女性客の嫉妬を買わぬ程度にお色気サービスをふりまき、我々男性にとってもありがたい限り。

宣伝会社が徹夜の会議を繰り返した挙句、わけがわからなくなって一番不適格な案を選んでしまったような邦題ではあるが、それだけで敬遠するのはもったいない。"ゆめみやぐら"だろうが"東京EDOタワー"だろうが、行ってみたら案外楽しいかもしれないのだ。

この作品の笑いどころは、庶民(ヒロイン、そしてほとんどの観客)の視線からみた上流階級の滑稽さ、ということになる。アメリカ、ニューヨークのお金持ちの奥様お母様たちは、こんなに興味深い、だけどマヌケな生活をしてますよ、といわんばかり。原作は『ティファニーで子育てを』という、邦題の100倍くらいマシなタイトルの小説だが、作者の実体験を多数織り交ぜてあるということだ。

笑えるのは、何か疲れたり傷ついたりするとすぐ「癒しが必要だわ」などと、子供を放り出してスパだの旅行だのに出かけてしまうあたり。きっと「母親が追い詰められていたら子供だってかわいそうだわ」などと、素敵な自己正当化理論を構築しているに違いない。俗に言う、がんばってる自分へのご褒美、というやつだ。

ところで私が『私がクマにキレた理由』を、単なる巨乳美少女が出てくるコメディではなく、特別なものとして一目置いている理由は、この映画が子育てについて、きわめて重要な真理をひとつ伝えているからだ。それは終盤に、子供が生まれ持つ親への愛について語られる場面。小さいお子さんがいるお母さんお父さんは、このシンプルで短いナレーションにぜひ注目してほしい。

ただ、セレブリティの描き方の的確さに比べ、庶民のそれはかなりステレオタイプであざといものがある。考えてみりゃ、作ってる人たちは勝ち組ばかりなのだから、それもやむなしか。



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