『フライング☆ラビッツ』20点(100点満点中)
2008年9月13日より東映邦画系にてロードショー 2008年/日本/カラー/120分/配給:東映
監督:瀬々敬久、原作:深田祐介「翔べ!ラビッツ―新世紀スチュワーデス物語」出演:石原さとみ、白石美帆、真木よう子、滝沢沙織、白石美帆
石原さとみがCAとバスケ選手の兼業に挑戦
日本航空、および日本バスケットボール協会の全面協力による青春バスケムービー『フライング☆ラビッツ』は、不祥事や運行ミスが続出する協力先のサゲマンぶりに引っ張られたか、ひどい出来であった。
夢だったキャビン・アテンダント=CAに合格し、颯爽とJALにやってきたゆかり(石原さとみ)は、同姓同名の別人と間違えられ社内のバスケットボールチーム"JALラビッツ"に入団させられる。ラビッツは日本バスケットリーグの強豪で、その猛烈な練習にゆかりはヘトヘト。しかし、バスケの面白さに魅せられた彼女はチームに残り、厳しいCA研修とバスケの特訓に打ち込んでいく。
石原さとみは間違って部に入れられた初心者だから、最初はド下手でかまわない。だが、その下手っぴがその後、試合で活躍するためにはもっと説得力が必要だろう。合気道の達人という設定をその一つにしたい思惑はわかるものの、そちらも到底有段者には見えず、結局なんで彼女が試合に出ているのか、また監督が出し続けているのか観客は最後まで納得できない。
チームメイト役の中には滝沢沙織のようにバスケ経験者もいるが、基本的に試合場面のショボさは目を覆いたくなるほど。周りが170cmオーバーの女の子ばかりの中、157cmの石原さとみなどは、チンチクリンが右往左往しているようにしか見えず、まるでコント。
なのにこの作品の監督は、よりにもよってそこへ本物のJALラビッツ選手を連れてきてOB役に仕立て、劇中で主人公らと試合させるなどしている。この意味不明なシーンがあるせいで、よけいに主人公チームのショボさが際だつ。
役作りのため、必死に練習して多少なりともバスケの腕を磨いた役者さんたちの努力を一瞬で無に帰す素敵な演出。考えた人は真性のサディストに違いない。
そもそも、ピンク映画出身の瀬々敬久監督をスポーツムービーに起用するセンスが渋い。どうひいき目に見ても、彼の得意技はこのジャンルではあるまい。これは要するに『フライング☆ラビッツ』にとってバスケはどうでもよく、長身の女の子たちを可愛くみせればそれでいいという事なのか。
バスケシーンの撮影ひとつ見ても、他のスポーツ映画を研究した痕跡は見られない。コートの外から撮ったような単調な絵が多く、この競技のスピード感は伝わってこない。
テーピングしても足を引きずっているような選手を、そのまま試合に続投させる場面があったりするが、どうみても選手虐待ご苦労様、といった趣きで苦笑を禁じ得ない。
作り手も出演者もみんな素人。観客も素人以外お断り。それで文句のない人だけ見てください、といわれているかのようだ。
服飾評論家の落合正勝氏はかつて男の靴選びについて、「3万円の靴を買うのを3回我慢して、9万円の靴を買う」選択をダンディなものとして推奨していた。映画界も『フライング☆ラビッツ』のような企画を3回スルーして、もう少しまともなスポーツ映画を作るダンディさを持っていただけないかと心より願う次第だ。もっとも、コレ3回じゃとても足りないかもしれないが。