『パコと魔法の絵本』40点(100点満点中)
2008年9月13日(土)全国東宝系ロードショー 2008年/日本/カラー/105分/配給:東宝
原作:後藤ひろひと(「MIDSUMMER CAROL ガマ王子vsザリガニ魔人」) 監督:中島哲也 出演:役所広司
、アヤカ・ウィルソン、妻夫木聡、土屋アンナ、阿部サダヲ
「下妻物語」の監督がおくる、心温まる絵本ムービー
「下妻物語」(2004)、「嫌われ松子の一生」(2006)と興行面で成功を重ねた中島哲也監督の最新作は、後藤ひろひと原作の舞台の映画化。得意のCG技術をこれまで以上にふんだんに使用した、ハートウォーミングストーリー。
昔々、あるところに変わり者ばかり集まる病院があった。中でもとりわけ偏屈な会社社長の大貫(役所広司)はみんなの嫌われ者。いつも同じ絵本ばかり読んでる少女パコ(アヤカ・ウィルソン)が無邪気に話しかけてきても、傲慢な態度は改まらない。しかも些細なことで激昂して、幼い彼女にビンタまで食らわす始末。ところが翌日、パコは何事もなかったようにニコニコ笑いながら近づいてくる。じつは彼女は事故の後遺症で、一日しか記憶が持たないのだった。
やたらと性格の悪いジジィが改心し、少女のためにあれやこれやして、はたして奇跡は起こるのか──という寓話的内容。とっぴな色彩の衣装、美術と大げさな演技で現実感を薄めた、スクリーン上で絵本を読ませるコンセプト。
こういう話は、実写で日本人がでてくるだけで生臭くなるもの。ここらへんの感じ方には個人差があろうが、私としてはこれだけオブラートに包んでもらっても、偽善的なお涙ちょうだいについていけず辟易した。とてもじゃないが、絵本を読むようにほのぼのと見ることは出来なかった。アヤカ・ウィルソン以外のキャストがあまりにイメージの固まった有名俳優ばかりだった、というのも原因の一つだろう。
だがそれよりも、開始30分間のグダグダがよろしくない。アクのある世界観になじむ前に、登場人物がクスリとも笑えぬドタバタギャグを繰り出すため、「もう結構です」という気分になってしまう。
ファンタジーの世界に人々を引き込むには、現実世界とリンクする要素(観客が共感できる何か)を残すべきで、そこを頼りに切り開いていくほかない。
むろん、評価の定まった有名原作ならそんなものは不要だが、本作は違う。そうした丁寧な「前振り」が皆無なため、というよりその必要性をおそらく監督が認識していないため、ひとりよがりさを感じさせる残念な出来となってしまった。
作り手の個人技に依ることが多い邦画では、撮り進めていくうちに、その作品世界に初めて触れる観客の心理に考えが及ばなくなるケースが、この作品に限らずきわめて多いと言わざるを得ない。
売り物である3D-CGと実写の合成は日本の映画では珍しいが、その出来映えはさすが。この大胆な演出は人々に大きな感動をもたらすに十分だが、いかんせんエンジンのかかりが遅すぎる。アヤカ・ウィルソンの無垢な雰囲気は役柄にぴったりだし、他の役者の演技力も十二分だけに惜しい。名作になり損ねた実験作、といったところか。