『ラストゲーム 最後の早慶戦』45点(100点満点中)
2008年8月23日、シネカノン有楽町1丁目、渋谷アミューズCQNほか全国ロードショー 2008年/日本/カラー/96分/企画・制作・配給:シネカノンA-Line
監督:神山征二郎(『大河の一滴』『ハチ公物語』) 出演:渡辺大、柄本佑、和田光司、脇崎智史、片山享、中村俊太

学徒出陣前、最後の早慶戦を感動の映画化

日本人にとって夏とくれば野球、あるいは戦争。両方一緒ならなおさらということで、学徒出陣により夢をくじかれた大学球児の実話が映画化された。

戦況悪化の1943年、敵性スポーツとみなされた六大学野球連盟は解散、中止となる。徴兵猶予も停止され、いよいよ日本は学徒出陣に追い込まれる。死地に赴く部員たちを思いやる慶應義塾の小泉塾長(石坂浩二)は、早稲田大学野球部・飛田(柄本明)に最後の早慶戦を申し入れるが、早大学長の田中(藤田まこと)の猛反対にあう。

戦争と不運な時代に翻弄される野球大好き純粋少年たちの悲劇、というやつだ。たっぷりのお涙頂戴をまぶし、感動的に作ってある。

別にそれはいい。まわりが命がけで国を守るため戦っている中、最後のけじめとして信念を持って野球をする。史実だし、気持ちもわかる。特に柄本明の部員たちへの親心。出撃して死ぬかもしれない若者たちのため、何かしてやりたいという思いは痛いほどにわかる。その温情は誰にも否定できまい。

だが、彼への反対者をあたかも悪人のように描くのはよくない。どちらの言い分にもそれぞれの正義があるのは当たり前。なのになぜ善悪の対立構図にしたがるのか。こういう事をすると、両者とも安っぽく見えてしまう。この手の反戦映画が陥りやすい特有のパターンだ。

柄本側を絶対的な善とし、それを邪魔する人間は悪。悪人だから善人の説得により一瞬で改心する。葬式の場面などに見られるこの安演出をみると、おやおや、またやってるよ、の思いを禁じえない。

平和主義な人々は、自分たちの理論思想に絶対的な信仰を持っている。自分たちの考えを伝えれば、皆そうなると信じて疑わない。頭の構造が新興宗教の信者と同じで、だから現実的な人々からはお花畑と揶揄される。

この映画もいい話とは思うが、根底に流れるこの独りよがりさが完成度を低めている。とくにネットなど多様な情報に触れている今時の若者には、受け入れられないのではないか。へたくそな背景の合成や恋愛話はまだ許せるが、この思想性はいけない。

もっともこれを見た森喜朗元首相は、「映画でこんなに涙を流したことはない」などと、セールストークとも言い切れない最大限の賛辞を送っている。彼らの世代にとっては、すんなり入り込めるということか。

野球部員を演じる主演の渡辺大は、当時の若者の心理からアプローチし、現代風の軽さを徹底排除する役作り。所作ひとつに至るまで気を配ったというだけあり、まったく現代人には見えない。父親の渡辺謙の面影を残すきりりとした雰囲気は、見ている側の心も引き締まるほど。

それだけに、もっとよくなったはずが……の思いを拭い去れず、残念極まりない。



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