『シティ・オブ・メン』70点(100点満点中)
Cidade dos Homens 2008年8月9日、渋谷シネ・アミューズほか全国順次ロードショー 2007年ブラジル/カラー/ヴィスタサイズ/1時間46分/日本語版字幕:松浦美奈/字幕監修:中原仁/配給:アスミック・エース
監督:パウロ・モレーリ 製作:フェルナンド・メイレレス 出演:ドグラス・シルヴァ、ダルラン・キュンハ
明るくたくましい、ブラジルスラムで抗争を続ける子供たち
ブラジルの貧民街における子供たちの暴力抗争を描いた衝撃作『シティ・オブ・ゴッド』(02年、ブラジル)は、世界中で好評を博した。
その大人気によりフェルナンド・メイレレス監督はその後、同作のテレビシリーズも手がけることになった。この『シティ・オブ・メン』は、そのテレビ版の完結編にあたる。だが初心者に優しい構成により、シリーズ未見でも問題なく楽しめるようになっている。なお今回フェルナンド・メイレレスは製作にまわり、テレビ版の脚本や監督を担当したパウロ・モレッリが後を継いだ。
リオデジャネイロの丘の上には、貧民街が広がっている。そこでは二つのグループが利権をめぐり、抗争を繰り広げていた。ここで生まれ育った18歳のアセロラ(ドグラス・シルヴァ)とラランジーニャ(ダルラン・クーニャ)は、父親がいない共通項もあってずっと親友同士だ。ところがあるとき、行方不明だったラランジーニャの父親を発見。父子の暮らしを尊重したいラランジーニャと離れ、孤立気味のアセロラは抗争相手のグループに身を寄せるようになる。
前作同様ジメ感ゼロ、ラテン風味のギャングドラマである。風景も人々の様子も現実離れしており、まったく実感できないせいか、どんなに凄惨な現実が描かれていても、こちらとしてはリアル鬼ごっこを見ているのと変わらない。なにか小学生同士が丘とり合戦でもやっているような、低次元の縄張り争いを見るような滑稽さすら感じられる。妙にマヌケで、無邪気な印象なのだ。
とはいえ、そのギャングごっこを本物の銃でやっているのだからただ事ではない。出てくる連中があまりにあっけらかんとしているので気づきにくいが、よく考えてみると笑ってしまうほど無法地帯すぎて、こちらとしては唖然と見守るほか無い。
こうしたブラジルのスラムの描写は、じつはかなりリアリティがあるもので、監督はその雰囲気を出すために様々な工夫を行っている。
実際に7箇所のスラムでロケを行い、出演者も現地調達。細かい演技指導はせず、セリフの言い回しは彼ら自身に任せたりして、空気レベルでの貧民街の再現を試みている。撮影上も、顔のアップには16mm、全景には35mmといった風にカメラを使い分けるなど、見えないところにまで手をかけている。こうした演出はことごとく成功している。この映画は、とにかくやたらとパワフルなのだ。普通、貧乏になると意気消沈しそうなものだが、彼らのほとばしるエネルギーはどこから来るのか。
それにしても、リオのスラムの風景には圧倒される。原色のTバックビキニがよく似合う褐色の女の子がキャピキャピしているビーチのすぐ背後の丘には、前述した銀だま鉄砲ごっこを実弾でやっている若者たちがいる。そこを空撮でなめるように写すと、いやになるほど貧しい建物が延々と山肌を覆っているのを確認できる。だがそれは、離れてみると意外にも統率が取れているようでもあり、まぎれもなく人々の暮らしがそこで行われいることを想像させる。
この風景は最新映画「インクレディブル・ハルク」にも主人公の潜伏先として登場した。ただ写すだけで見せ場になってしまう、世界最強のインスタント景色素材といえるだろう。
登場人物、そして彼らが暮らす社会、いずれにおいても父親不在の物語は、ほのかな希望を感じさせる秀逸なエンディングに収束する。正しく生きることを絶対的に賛美する視点がとても頼もしい。見てよかったと思える佳作である。