『闇の子供たち』85点(100点満点中)
2008年8月2日(土)より、シネマライズほか全国順次ロードショー 2008年/日本/カラー/138分/配給:ゴー・シネマ
監督・脚本:阪本順治 原作:梁石日 主題歌:桑田佳祐「現代東京奇譚」 出演:江口洋介、宮崎あおい、妻夫木聡、佐藤浩市

児童買春、臓器売買を痛烈批判する社会派の日本映画

『闇の子供たち』は、「本年度日本映画界最大の問題作」と宣伝されているが、そのコピーに偽りはない。生半可な気持ちで見ては痛い目にあう、きわめて重い社会派ドラマである。

タイ・バンコクの支局で働く新聞記者、南部浩行(江口洋介)は、タイ闇ルートで行われている子供の生体臓器移植の取材を始める。その過程でフリーカメラマンの与田(妻夫木聡)、NGO職員の音羽恵子(宮崎あおい)らと出会い、協力して調べを進めていくが、その先には彼らの想像を超えたおぞましい現実と、裏社会からの制裁が待っていた。

児童買春、エイズ、人身売買、生きたままの臓器摘出……。先進国の人々の欲望、あるいは命を救うため、外国の貧しい子供たちの生存権が踏みにじられていく。それぞれが密接にかかわるこうした問題の本質を真っ向から暴き、観客の目の前にさらけ出す。

テーマがあまりに重いだけに、集まったキャストらの意気込みが段違い。絶対に下手は打てないという、他の映画とはまったく次元の異なる緊張感が、彼らの一挙手一投足からはっきりと感じられる。

江口洋介は観客のすべてを驚かせる素晴らしい役作りを見せるし、宮崎あおいの世間知らずな「自分探しボランティア女」ぶりも相当にうまい。妻夫木聡や佐藤浩市ら脇役も、他作品の演技とはまるで違う"本気"を見せているので、ファンは文字通り必見である。

阪本順治監督は、タイの恥部を暴くことよりも、日本人である観客に当事者意識を感じさせることを重要視しているように見える。自分が描くテーマに対し、必死に冷静でいようとしているが、いてもたってもいられない怒り、あるいは焦りの痕跡が全編いたるところから感じられる。その誠実さに私はいたく感動したし、好感を持った。

ややわかりにくいが、ぜひ確認してほしい見せ場のひとつがある。エイズに罹患して売春宿から捨てられた幼い少女が、必死の思いで実家にたどりつく場面がそれだ。この少女の運命こそこの映画の登場人物の中でもっとも悲惨で、かつ象徴的なものといえる。

阪本監督は子供たちが"買われる"場面について、少年少女の裸は極力写さず、逆に相手の男たちの薄汚いそれをフィルムに焼き付ける構図で撮影した。子供たちが異常性愛者どもの手で陵辱される場面は映画を成立させるために不可欠だが、その映像じたいがペドフィリア連中を喜ばせる事は絶対に避けたい。そこで心理学者からの助言を採用してこの形にしたという。撮影にあたり、被害者役の子役たちへのケアを怠らなかったのももちろんだ。こうした気遣いは非常に大事なことだし、それを事前に知っておけば観客側も安心して鑑賞することができるだろう。

映画の最後にうつる"あるもの"からは、監督からの直接的で強烈なメッセージを感じられる。桑田佳祐が書き下ろしたエンディング曲は賛否両論だが、作品の雰囲気に合っていると思うし私は結構好きだ。いずれにせよこういうハイレベルな邦画の登場は、たいへん喜ばしい。

※当作品は社会派ドラマではありますが、内容はあくまでフィクションです。あえてショッキングかつ残酷な設定に日本人を悪役として絡めることで、こちらへ強く問題提起しようとしている部分があります。この作品に限らず、フィクションを現実とごちゃ混ぜにして理解せぬよう、お気をつけください。興味のある方は、関連書籍を読むなど調べてみることをおすすめします。この件については、問い合わせが多いので、以上、付記しておきました。(2008/10/02)



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