『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』60点(100点満点中)
The Sky Crawlers 2008年8月2日、渋谷東急、丸の内TOEIAほか全国ロードショー 2008年/日本/カラー/121分/配給:ワーナー・ブラザース映画
監督:押井守 原作:森博嗣 脚本:伊藤ちひろ 音楽:川井憲次 声の出演:菊地凛子、加瀬亮、栗山千明

押井守監督が現代の若者に送るメッセージ

宮ア駿監督の『崖の上のポニョ』が話題だが、今夏はもう一方の巨匠・押井守の新作も登場。今回彼が手がけたのは森博嗣原作の『スカイ・クロラ』シリーズのアニメ化。このシリーズは作中の時系列と出版順序が一致していないが、本作品は小説版の一作目にあたる。

舞台は現在と似たどこか。ここでは思春期の少年たちを戦闘機に乗せ、ショーとしての戦争を戦わせることによって人々は平和を実感している。いくらでも代わりのいる、決して年をとらぬこの不思議な少年たちは「キルドレ」と呼ばれ、今日も戦死者が続出する最前線に補充されていく。そんなキルドレの一人カンナミ・ユーイチ(声:加瀬亮)は、欧州のある空軍基地に配属される。そこの女性司令官クサナギ・スイト(声:菊地凛子)は、なぜか彼のことを知っている様子だったがカンナミには覚えがない。

宮ア監督が、あの漫画チックな絵柄でクラシックな童話づくりを目指すという無謀な挑戦をしている間に、押井監督は彼の十八番である空戦アクションをものにした。

機銃の直撃を受けキャノピー内に飛び散る血しぶきや、サブ燃料タンクを緊急投下する描写など細部にこだわるマニアックな演出と、3DCGを効果的に使用した飛行時の戦闘機アニメーションは、ハリウッド実写作品顔負けの物凄い迫力。「イノセンス」(04年)のファーストシーンを見たときのような、あごが外れるほどの驚きはないが、さすがのクォリティというほかない。

中心となる地上のドラマ部(こちらは2Dの手描きで作られており、空の場面とのコントラストが鮮やかだ)は、感情希薄なキルドレ役ということで、やや棒読みになりがちな有名人キャストの声も違和感はない。なぜか"絶対に勝てない"敵のエースパイロット、ティーチャーとの戦いが迫る終盤は、絶望感、あるいは悲壮感がひしひしと感じられ味わい深い。

見た目のリアリティとは裏腹にシュールなこの世界。ある種の異常さをさえ感じさせるが、そこで観客はふと立ち止まる。企業の利益を目的とした戦争も、国益のためのそれも、本質的に違いはないのではないか、と。

なお押井監督が「映し鏡」と語っているように、キルドレたちの選択や生き方が現代の若者のそれを表している事は間違いなかろう。監督が若者に伝えたいメッセージは、クライマックスのモノローグに込められているそうなので要注目。

シンプルなストーリーから何を感じ、受け取るか。キルドレたちの姿に何かの共感をえられたあなたは、まだまだ十分にワカモノというわけだ。残念ながら私の場合は、そこには含まれていないようだったが。

 
スカイ・クロラ (中公文庫)
原作小説。個人的には、この作者の作品とはイマイチ相性が悪いです。
押井守ワークス+スカイ・クロラ The Sky Crawlers (別冊宝島 1546 カルチャー&スポーツ)
押井守の仕事ぶりを知りたい人に。
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