『敵こそ、我が友 〜戦犯クラウス・バルビーの3つの人生〜』70点(100点満点中)
MON MEILLEUR ENNEMI(仏)/MY ENEMY'S ENEMY(英) 2008年7/26、銀座テアトルシネマほか全国ロードショー 2007年/フランス映画/1時間30分/Dolby SR-SRD/日本語字幕:寺尾次郎 配給:バップ、ロングライド
監督:ケヴィン・マクドナルド プロデューサー:リタ・ダゲール ナレーション:アンドレ・デュソリエ

リヨンの虐殺者といわれたナチスの戦犯の数奇な人生

能力の高い人材は職場を問わず活躍できるので、不況になっても食いっぱぐれることがない。諜報の分野にもどうやらその法則は当てはまるようで、裏社会の人脈に通じ、たくさんの拷問法を知っていて、かつ自分の手でそれを実行できるような才能はそう簡単に裁かれる事はない。

ナチスの中でも極悪と称される戦犯でありながら、戦後ものうのうと生き延び億万長者になった男、クラウス・バルビー。このドキュメンタリーは、彼の奇妙な人生を追いながら、なぜ戦後の世界が彼を必要としたのかを考察する。正義だの悪だのといった建前より重要な、あるいはそれを遂行するために必要な国際社会の裏側を理解する助けになる作品だ。

クラウス・バルビーはナチス・ドイツの親衛隊中尉として、フランスのリヨン市の治安責任者となり、そこで数々の共産主義者やユダヤ人をひどい目にあわせた。文章にするのもおぞましい拷問や虐殺は、何の罪もない子供たちにまで及んだ。部下に命ずるのみならず、自分の手で直接行った点が特徴的とされる。

この映画の特徴のひとつは、そうした証言をする被害者へのインタビューと、バルビーを擁護する関係者のそれを交錯させ、ある種の擬似討論風に仕立てた点。インタビュアーが優秀だったか、いい証言をいくつも取ってきているが、それをこうした編集により、さらに印象的に見せる。

むろん、フランス映画らしく反ナチスの態度は一貫しているから、論破されるのは常に親バルビー側となる。たとえば戦後バルビーを救い、雇った米国情報部の関係者が「バルビーの素性についてはよく知らなかった」などとすっとぼけると、すぐに別の専門家に画面が切り替わりその嘘を一刀両断する。フランス人がこれを見ると、まずは怒りを刺激され、その後多少の溜飲を下げられるというわけだ。だいたいそういう形になっている。

私がお勧めする見せ場は、老いたバルビー本人にテレビ局が取材する場面。ここでインタビュアーは、スパイ映画顔負けのトリックをバルビーに仕掛ける。それを受けたバルビーは、おそらくコンマ何秒かの間に保身のための猛烈な計算、シミュレーションを脳内で行い、回答している。画面に映らないその応酬を想像するだけで、作り物でないスリルを感じることができる。

バルビーのような男を利用してまで行われる世界の勢力争いの構図は、もちろん今でも変わらず存在する。それを認識するだけでも、世の中の見方は変わり、簡単にだまされないぞと言う気持ちを持つことができる。定期的にこうした作品を見ることは、国際情勢に興味を持つ人にとって決してマイナスになることはないだろう。

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