『いま ここにある風景』65点(100点満点中)
Edward Brtynsky; Manufactured Landscapes 2008年7月12日(土)、東京都写真美術館ホール、シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー 2006年/カナダ/カラー/87分/配給:カフェグルーヴ、ムヴィオラ
監督:ジェニファー・バイチウォル 撮影監督+クリエイティヴ・コンサルタント:ピーター・メトラー 出演:エドワード・バーティンスキー

中国の想像を絶する環境大破壊をご紹介

『いま ここにある風景』は、いまの中国のとんでもない実態を自らの目で見たい人にはたまらない一品である。

カナダの写真家エドワード・バーティンスキーは、社会の発展が環境に与える変化を撮り続けてきたカメラマン。彼が撮れば、産廃も環境破壊も美しいアートになってしまう。本作は、彼が新たに目をつけた地上最大の経済発展地区=中国の風景を、彼と共に切り取ったドキュメンタリー。

冒頭から度肝を抜かれる。機械がうなり声を上げるアイロン工場の内部を、移動撮影で延々と見せるだけなのだが、これがいつまでたっても終わらない。だが観客はひとつのショットが終わらない事よりも、"この建物ははいったいどこまで続いているのか?"に驚くことになるだろう。

やがて建物の外見が明らかになるが、その敷地内には同様の建築物が延々と並べられ、地平線のかなたがかすむまで合わせ鏡のような同じ風景が続いている。

「経済発展のためってのはわかるけど、ここまで無茶な規模のモン作るってどうなのよ」という、作品のテーマのひとつが浮かび上がる。上手なオープニングだ。

この工場の朝礼風景が笑える。ある班長が「わが班は一番不良品が多いが、お前たちときたら不良品を見つけても(判別用の)シールを貼ろうともしない。それどころかシールさえ持ってきてないじゃないか。俺はいつも検品の人に文句を言われてるんだぞ」とガミガミ叱っているが、周りは笑いをこらえながらそれを聞いている。なんといっても、班長の指摘内容ときたらまるで小学生レベル。さすがはメイドインチャイナと、心でつぶやかないわけにはいかない。

ほかにも、ニコニコ笑いながら有害廃棄物を素手で分類している田舎のおばあちゃんとか、その有害物質が小高い山のように積まれた場所で喜んで遊んでいる子供たちとか、シュールな風景が次々出てくる。彼らは石臼みたいな台の上に危険な部品を置き、笑顔のままハンマーでガンガン作業している。それがヤバいものだという認識があるようにはまったく見えない。

中国以外のエピソードもすさまじい。たとえばバングラデシュのチッタゴンにおけるビーチングといわれる大型船解体作業。なんと海岸にタンカーを打ち捨て、干潮時に2万人が一斉に走っていって急いで人力で解体する。日本の船がほとんどというから他人事ではない。

作業時に出てくるアスベストは好きなだけ無料で吸い放題、まだ10代の貧乏な子供たちが、タンカーの残り原油を素手でかきだしている。どう考えても人死にが出ていること間違いない、恐ろしい職場だ。日本でも最下層の人々はつらい仕事についているし、それが嫌で引きこもりやニートになる若者も少なくないが、これはもう次元が違う。なにしろここまでやって日給は200円程度というのだ。もう、あきらかにやばい。3K仕事の世界チャンピオンである。

ここで紹介したのは一部で、本編にはさらに驚くべき映像が次々登場する。ほとんど世界びっくり映像大集合。いかに写真家が映像にアートの味付けをしようと、「どの先進国もやってきたことを中国はやっているに過ぎない」などと認識不足も甚だしい奇麗事をのたまおうと関係ない。

見ると聞くでは大違い。一度は見ておいて損のない、まさにいまここにある風景だ。



連絡は前田有一(webmaster@maeda-y.com 映画批評家)まで
©2003 by Yuichi Maeda. All rights reserved.