『近距離恋愛』60点(100点満点中)
MADE OF HONOR 2008年7月12日(土)より、日比谷みゆき座ほか全国ロードショー 2008年/アメリカ/カラー/101分/配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
監督:ポール・ウェイランド 出演:パトリック・デンプシー、ミシェル・モナハン、ケヴィン・マクキッド、シドニー・ポラック、キャスリーン・クインラン

男女を越えた仲と思っていた女の子が"オンナ"に見えるとき

『近距離恋愛』は一見よくあるラブコメだが、その内容はいかにもリセッション時代のアメリカらしいもので、大変興味深いものがあった。

遊び人のトム(パトリック・デンプシー)に対し、いつでも誠実なハンナ(ミシェル・モナハン)。性格は対照的だが二人は毎週末ごとに仲良く出かける。学生時代から続き、今では互いの恋愛遍歴まで語り合う、男女を越えた親友同士なのだ。ところがハンナがスコットランドへ長期出張し、あえない日々が続くと、トムは自分が彼女を女性として愛していたことに気づく。だがときすでに遅し、ハンナは出張先で地元の貴族と出会い即婚約、トムの気も知らず結婚式の花嫁付添い人=MADE OF HONOR を頼んでくるのだった。

親友として信頼されているからこそのMOH依頼なわけだが、すでに恋愛感情に変わった男にとってこれは地獄。よりにもよって最愛の女性とどこの馬の骨とも知らぬ男の結婚式を成功させねばならないとは! そんなマヌケな立場に追いやられ、しかし必死に二人の仲を裂こうとする男が滑稽だ。

結婚式の舞台となるスコットランドの大自然の美しさは圧倒的で、その風景が出た瞬間「こりゃ勝ち目なしだわ」と感じてしまうほど。あちらの面白い風習もいくつか紹介され、バーチャル旅行的に楽しむことができる。

さて、冒頭にも書いたがこの映画、不況まっしぐらの現代アメリカでウケるのも当然というべき内容である(初登場2位。1位は別格の超大作『アイアンマン』なので、この規模の恋愛映画としては上出来)。

まず主人公のニューヨーカーは恋敵に対して経済力で負けている。何しろ相手は城持ちの貴族、教養や家柄においても勝ち目はない。その後はスポーツでも負け、肉体でも負けてしまう(シャワールームの場面は傑作だ)。もっとも相手の男は天然のいいヤツで、女を賭けた勝負を挑まれているとは露知らず、というあたりが笑える所なのだが。なんにせよ、もうコテンパンもいいところ。

実はこの負け方こそが、アメリカ人には特別にキツいものなのだ。すっかり自信をなくしている経済はもとより、国民として一番のコンプレックスである文化や歴史で圧倒される。逆に最大の自慢であるスポーツ(よりにもよって国技ともいうべきバスケ)と肉体美までも。マッチョ志向の国民性を考えたら、このあたりで敗北することは本当につらかろう。

こうした映画内の設定は、あちらの観客の痛いところを的確につつく事を最大の目的としている。先行き暗い今のアメリカ社会においては、こういう主人公こそが共感を集める(感情移入しやすい)というわけだ。まさに不況時らしい映画ではないか。

さて、「プライドをへし折られズタボロになった主人公=自信を失っている今のアメリカ人」の、最後のよすがとは何か。──そう、「愛」である。何もかも失った彼らは、愛だけを武器に圧倒的な敵に立ち向かうのだ。アメリカ国民に、このロマコメ映画がどれほど多くの希望を与えたことか。想像すると苦笑を禁じえない。

おまけに主人公が結婚式で行う行為ときたら……。作っている側も気づいてなさそうで怖いのだが、これほどゴーマンで不埒千万な展開を、おそらく疑うこともなく受け入れているのだからアメリカ人てのは愉快な人々だ。

全体的にちょいと笑いが足りないきらいはあるが、伏線も適度に張ってありロマコメ映画としては上々。だがやはり『近距離恋愛』は、いまどきのアメリカらしい空気に満ち溢れた作品として、中距離くらい離れて味わう方がより楽しめる。

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主演のパトリック・デンプシーといえばこの映画。
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