『ホートン ふしぎな世界のダレダーレ』75点(100点満点中)
Horton Hears a Who 2008年7月12日(土)、お台場シネマメディアージュ他全国ロードショー 2008年/アメリカ/86分/配給:20世紀フォックス映画
監督:ジミー・ヘイワード & スティーヴ・マーティノ 脚本:シンコ・ポール & ケン・ダウリオ 原作:ドクター・スース 声の出演:ジム・キャリー、スティーヴ・カレル、キャロル・バーネット
絵本作家Dr.スースと日本人大学教授の交流により生まれたハートフルストーリー
私はこれを日本語吹き替え版の試写で見たが、さすがに歌の場面はオリジナル音声を聞きたいと思ったものの、全体的には満足のいくものだった。森川智之&雨蘭咲木子という『ダーマ&グレッグ』でおなじみの二人をはじめとする、専門の声優で固められた日本語版キャストの実力によるものであることは疑いない。
20世紀フォックスといえば『ザ・シンプソンズ MOVIE』(07年)公開の際、テレビ版と異なる有名人キャストを日本語吹き替え版に起用し、大顰蹙をかった事件が記憶に新しいが、さすがに懲りたのだろうか。いずれにせよ、これを見に行く子供たちはほぼ100%日本語版を見るのだから、知名度より完成度をとった方針は評価できる。
ジャングルに住む優しい象のホートン(声:ジム・キャリー 森川智之)は、大きな耳の前を横切るホコリの中から誰かの声が聞こえてくる事に気づく。ホコリに見えたものは、じつはダレダーレという名の極小の平和な国。安定して暮らしていた場所から、風に飛ばされここまでやってきたのだ。風に飛ばされるたび、嵐や地震におびえてきたダレダーレの市長(声:スティーヴ・カレル 小森創介)と無事コンタクトを取る事に成功したホートンは、彼らが安心して暮らせる場所まで運んでやる事を約束、冒険の旅に出る。
日本では『グリンチ』(2000年、米)の原作で知られる絵本作家ドクター・スースのベストセラーの映画化。この作品がユニークなのは、ホートンと市長は、あまりにサイズに差がありすぎて互いを見ることができないという点。市長以外のダレダーレの人々は、自分たちがホコリ一粒にすぎぬ事など想像もしていないし、ホートン以外の動物たちもホコリに国があるなんて気づかない。
だが、ほんの偶然で互いを認識した二人(ホートンと市長)だけは、目に見えぬ相手を信頼し、友情を育んでいく。ダレダーレの市長は自分と国の運命を、見たこともないマクロな世界の象に託す。象は無償の善意でその期待に応えようとする。とても美しいお話だ。
クライマックスには、市長の引きこもり気味な息子が大活躍する感動の見せ場なんかもあり、大人の涙腺をも刺激する。「どんなに小さくても、人は人だ」と固く信じるホートンのセリフが泣かせる。文科省印がついているだけあって、子供の教育上もたいへんよろしい。終盤の演出を味わえるよう、音場のしっかりした映画館で見ることをすすめる。
思い切りマンガチックに造形された動物たちも、いかにも健全なアニメといった雰囲気で好感度大。子供と大人で笑う箇所は違うものの、コメディーとしても平均以上。ナレーションは少々くどいが、小さい子の理解を助けるためと思えば許せなくもない。悪役の行動には相当無理があるが、このあたりの脚本上の適度な手抜きをアメリカらしい大味さと受け入れられるかどうかがポイントか。
なお原作者Dr.スースは、この物語を同志社女子大学英文学科の中村貢教授との交流により思いついたという。そのエピソードと無関係ではなかろう、劇中には日本アニメをモチーフにした遊び心たっぷりの2Dアニメパートがある。ここは日本人へのサービスということで、じっくり堪能するとよいだろう。