『火垂るの墓』30点(100点満点中)
2008年7月5日(土)より、岩波ホールほか全国ロードショー 2008年/日本/カラー/100分/配給:パル企画
原作:野坂昭如(新潮文庫刊『アメリカひじき・火垂るの墓』より) 監督:日向寺太郎 脚本:西岡琢也 出演:吉武怜朗、畠山彩奈(子役)、松坂慶子

あのトラウマ作『火垂るの墓』が実写映画化

作家・野坂昭如(のさかあきゆき)が自身の戦争体験を生かした小説『火垂るの墓(ほたるのはか)』は、何といってもスタジオジブリのアニメ化版(高畑勲監督)の印象が強い。のどかな『となりのトトロ』と同時上映し、子供たちとファミリーに強烈なショックを与えたのみならず、毎夏のようにテレビ放映してトラウマを呼び起こしているのだからそれも当然。多くの人が言うように、一番泣ける映画にして二度と見たくない映画。今回は実写映画となって、再度日本人の心を直撃する。

1945年6月の神戸。大空襲により家と母親(松田聖子)を失った14歳の清太(吉武怜朗)と4歳の節子(畠山彩奈)。遠い親類(松坂慶子)を頼るもひどい仕打ちをされ、幼い兄妹は町外れの防空壕で二人だけの生活を始めるのだった。

実写映画版『火垂るの墓』の監督は、なにかと不運な存在である。なにしろ原作はもとより、高畑勲の強烈なアニメ版と比較される運命にある。そのうえ本来この企画は戦争ドラマの名手・故黒木和雄監督が予定されていたもの。若い日向寺太郎(ひゅうがじたろう)監督が、一度は辞退したというのも頷ける。高畑勲に黒木和雄、どちらにも勝てる気がしない。

で、肝心の出来栄えだが、まるで空気に色がついているような黒木演出や、ドロップ一粒にまで演出者の執念がこもっているかのようなアニメ版に比べれば、相当な薄味であることは否めない。兄妹が追い込まれていく様子があまり感じられないし、戦争および当時の生活感が表現できているともいいがたい。

ただそれでも、母を失い無表情だった主人公少年が、母の着物を奪われるときと妹が亡くなる場面のみ見せる感情の発露など、日本人の琴線に触れるいい演出も見受けられる。古典の新解釈だそうだが、手抜きせず目いっぱいの力を出した様子は伺える。

個人的にはきれいなお芝居ではなく、もっと情念というかズタボロになる人間の感情をフィルムに焼き付けてほしかったのだが……。

アニメのように泣けるわけでもないし、実写ならではの嘘っぽさも気になる。悪くはないが、すすんで見たくなるというほどでもない。



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