『スピード・レーサー』40点(100点満点中)
SPEED RACER 2008年7月5日(土)、サロンパス ルーブル丸の内他 全国ロードショー 2008年/アメリカ/135分/配給:ワーナー・ブラザース映画
原作:吉田竜夫「マッハGo Go Go」 監督・脚本:アンディ・ウォシャウスキー、ラリー・ウォシャウスキー キャスト:エミール・ハーシュ、クリスティナ・リッチ、マシュー・フォックス

日本アニメ「マッハGoGoGo」のハリウッド実写版

『スピード・レーサー』は、『マトリックス』三部作を作り上げたウォシャウスキー兄弟がアメリカでも人気がある日本アニメ「マッハGoGoGo」を実写化したもの。人物以外ほとんどデジタル処理された画面をみると、はたしてこれを"実写化"と呼んでいいのか疑問を感じなくはないが。

レース中に事故死した兄を敬愛し、自身もレーサーとして頭角を現すスピード・レーサー(エミール・ハーシュ)。彼は、父(ジョン・グッドマン)が設計し一家総出でバックアップするマッハ号を駆り、圧倒的な力を見せ付けていた。そんな彼に大企業のオーナー(ロジャー・アラム)から好条件のオファーがくるが、家族を大事にするスピードは断ってしまう。するとオーナーは手のひらを返したようにあらゆる妨害を始めるのだった。

キャンディをぶちまけたような原色の色使い、めまぐるしいスピード感にのっけから心奪われる。ただ、私は試写室の最前列で見たのだが、これは失敗だった。画面の情報量が多すぎる上に動きが早すぎて、ついていくだけで猛烈に疲れた。皆さんには後部に陣取ることをアドバイスしておこう。

止め絵でみるとこのレース場面、細部までよく描きこまれ、あらゆるデザインも複雑で、すごいものを作り上げたなと思う。ところが実際それが動き出すと、脳が勝手に単純化しているのか、安っぽいベタ塗りのアニメ絵を見た印象しか残らない。

何十年前の古い特撮映画を見ると、シンプルな技術しか使っていないのに壮大なスペクタクルを見た気がするのと、まるで反対の現象がおきている。

VFXの進歩に、見る人間の側がついていけなくなる時代ということか。今後のVFXデザイナーは「いかに凄いものを作るか」ではなく「人の脳に凄く感じさせるものを作るにはどうするか」を試されていく事になろう。

メイン客層が男の子連れのファミリーということもあり、内容は簡単な物語と派手な見せ場の典型的なアクション大作の範疇にとどまる。古典的な哲学主題を、現代的でスタイリッシュなSF作品に凝縮させた、いわばウォシャウスキー兄弟の持てる知性と技術をすべてつぎ込んだ入魂の『マトリックス』シリーズに比べると、流し運転で作ったような気軽さを感じさせる。

意外なキャスティングとして、真田広之が謎めいた実業家役で出演しているが、活躍の場はほとんどなし。さらに韓国の国民的歌手でアジアの大スターと一部で言われるRAIN(ピ)も、さらに重要な役を演じている。ただ、その扱いはちょいとひどい。こんな役をやらされて、ファンは怒らないのだろうか。

中身はグローバリズム批判のようなものも散見できるが、それ以上に現実感のなさ過ぎる見た目(合成のみならず動きすぎるカメラも含め)に、思ったより早く飽きが来た。米国で予想をはるかに下回る評判だったというのも頷ける。



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