『歩いても 歩いても』60点(100点満点中)
2008年6月28日、シネカノン有楽町、渋谷シネアミューズ、新宿武蔵野館にてロードショー 2008年/日本/カラー/114分/配給:シネカノン
監督・脚本・編集:是枝裕和 キャスト:阿部寛、樹木希林、原田芳雄
是枝裕和監督の「あるある」ホームドラマ
カンヌ国際映画祭最優秀男優賞をとった「誰も知らない」に続く是枝裕和監督最新作は、ある家族の一日を描いた現代劇。大それた事件が起こるわけでなく、とりわけ面白いストーリーがあるわけでもないのに、その人間観察力の鋭さだけで2時間持たせる力技には舌を巻く。
長男の命日のため、横山良多(阿部寛)は妻(夏川結衣)とその連れ子とともに自分の実家にやってきた。頑固者の父親(原田芳雄)とそりが合わぬ良多にとって気の進まぬ帰郷だったが、案の定彼らはのっけから重苦しい空気を味わうことになる。
日本のどこにでもいそうな一家の24時間。開業医として人々の尊敬とそれなりの成功を得た父親は、老いてなお"独裁者"として君臨する(したがっている)。一方、いい年をして安定した職に就けぬ主人公は、父の威光、優秀だった亡き長男の存在がいまだ大きなコンプレックスとなっている。結婚したばかりの妻につれ子がいる事もまた、無関係ではないだろう。
いつまでも父越えが出来ぬ息子の虚勢は、ただただ痛々しい。しかし、そんな刺々しい環境をやわらげる女たちがいる。YOU演じる良多の姉の持つ強さと明るさ。樹木希林演じる母親の飄々とした大物感。そんなものがうまくこの家族のつなぎとなり、バランスがとれている。
そんなわけで序盤は辛らつでイタタな人間描写ばかりが目立つが、全体を見渡せばユーモアがあふれている。子供が「おばあちゃんの家」ではしゃぐ姿を見たオヤジが、「この家はわしが建てた、"おじいちゃん"の家じゃないか」とぼやく様子など、思わずくすっと笑ってしまう場面が多数ある。
どんな家族もそうであるように、時間が流れれば各々の立場や力関係は微妙に変化していく。不変に見えたこの一家の父子のそれも、結局は収まるべきところに収まっていく。終盤のそうした「変化」は、予想できるものの心温まる。
ただ問題はこれ、たった1日にしてはあまりに出来事、すなわち動きが多すぎる。やたらと濃厚な24時間は、リアリティに欠ける事甚だしい。手持ちのネタをつめこみすぎ、濃縮還元のジュースを原液で味わっているかのようなくどさを感じる。
「こういう家族あるよね、ね、ね?」とひっきりなしに同意を求められているようで、大変うざったい。ホームドラマは抑制が大事と考えている私にとっては、この映画は24話くらいの連続テレビドラマにしたらいいんじゃないかとさえ感じられた。
そうした不自然さが、せっかくの人間観察力による「あるある」感を打ち消してしまったのは否めない。よってこれを見る際は、猛烈凝縮型ホームドラマだという点を念頭において、各自脳内で薄めながらの鑑賞を推奨しておく。