『コミュニストはSEXがお上手?』70点(100点満点中)
Liebte der Osten andrs? Sex im geteliten Deutchland 2008年6月21日、ユーロスペースにてロードショー 2006年/ドイツ/52分/配給:パンドラ
監督・脚本:アンドレ・マイヤー アニメーション:モーション・ワークス ナレーション:トーマス・フォークス

東西に分かれたドイツは、セックス観も大きく変化した

こんな映画を見ようと思っている皆さんは、きっとよそ様のセックスが気になって仕方がないタイプに違いない。そりゃ誰だって気にはなるさと言い訳しても、『コミュニストはSEXがお上手?』を見ると、それが人類不変の法則でもなんでもないことがわかる。

この52分間のドキュメンタリーは、ドイツで放映されたのち山形国際ドキュメンタリー映画祭で上映され話題を呼んだもの。貴重な資料映像をふんだんに使った、社会学的好奇心を満たす作品となっている。

ご存知のとおりドイツは戦後、同じ民族でありながらベルリンの壁によって東西に分けられた。西は資本主義、東は共産主義となり、1989年に壁が壊されるまで両者はまったく違う道を歩んだ。

ではその間、東と西のセックス観はどう変化したのだろう。

そんなことを考え、わざわざ調査した社会学者たちには頭が下がる。この映画は、テンポ良い編集とユニークなアニメーション、的確なナレーションで楽しくその成果を伝える珍しい作品。驚くべき結果の数々には、いろいろ考えさせられる。

敗戦により「女以外何もかも不足」していた東ドイツでは、労働者としての女性の社会進出が進んだ。一方帰還兵が多かった西ドイツでは、女性は社会労働を男たちに譲り、家庭に入ることを選んだ。

結果、東の女たちは経済的に自立し、ベッドでも主導権を握る。男にはテクニックの向上を堂々と求め、快楽としてのセックスを楽しむようになり、行きずりのHにも抵抗はない。そんな積極的な女性たちを満足させようとの向上心が功を奏したか、東ドイツの男たちのほうが、持ちモノが6mm長くなったという。どうやってデータ集めたんだ。

このあたりはいかにも無神論者的な自由奔放さといえるが、低容量ピルを服用する習慣が生まれる前の時代のこと。コトの結果として当然のこと、子供がたくさん生まれることになる。むろん、国力を上げねばならぬ敗戦後のこの時期、それは国家としても大歓迎だったろう。彼らは国営工場に保育園を併設、子育て世帯には住居を提供するなど手厚い政策的保護を与えた。フェミニストが泣いて喜ぶ理想郷だ。

私はこれを見る前、東は貧しかったからほかにやることが無く、セックスが上手くなったんだろう程度に考えていた。だがどうやらコトはそう単純ではなかった。

この映画を見ると、一見自由に見える西側の方が、じつは不自由だったのではないかと気づかされる。確かにポルノも風俗産業も東と違って禁止されていないが、人々の心の中には大きなかせがあるのではないか。そしてそれは、映画が語るように教会による性道徳うんぬんではなく、資本主義の根本原理のひとつ、競争意識こそが原因では無いのか。

胸や性器の大きさ、相手をイかせられるかどうかにこだわり、元彼と比べ上手いかどうかがつい気になる……、男女ともセックスに「比較・競争」を当たり前のように持ち込む。そんな連中とメイクラブするとしたら、そりゃ手も縮むだろう。人と比べることばかり考えてたら、東のような自由なヌーディスト文化も普及しない。

何度も劇中で流される、若い女たちが全裸で輪になってGスポットを探すへんな集まり(タントラ講座)は、彼女たちの不自由さを如実にあらわしている。

刺激的なタイトルに反して、なかなか教訓的でためになる。セックスに悩むアナタにも、おすすめの一本だ。



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