『イースタン・プロミス』75点(100点満点中)
EASTERN PROMISES 2008年6月14日(土)より全国順次ロードショー 2007年/イギリス・カナダ・アメリカ/カラー/100分/配給:日活
監督:デヴィッド・クローネンバーグ 脚本:スティーヴ・ナイト キャスト:ヴィゴ・モーテンセン、ナオミ・ワッツ、ヴァンサン・カッセル
全裸格闘に挑んだヴィゴ・モーテンセン
『イースタン・プロミス』は、『ロード・オブ・ザ・リング』のアラゴルン役ヴィゴ・モーテンセンの主演最新作。なんと彼の全裸姿モザイク無しによる格闘シーンがあるということで、世界中の女性映画ライター間で大変な話題を呼んだ(と予想される)問題作である。
クリスマス前のロンドン。看護士アンナ(ナオミ・ワッツ)が勤める病院にロシア人少女が運び込まれ緊急出産するが、母体は残念ながら死亡した。なんとか赤ん坊の父親を見つけたいと考えたアンナは、少女が残した手がかりからあるロシア料理店にたどり着く。そこの関係者とみられる自称運転手(ヴィゴ・モーテンセン)の警告を無視してさらなる探りを入れた彼女は、しかしすでに闇社会に絡め取られつつあった。
イギリスにおけるロシアンマフィアの世界を描いた社会派作品である一方、すぐれたサスペンスでもある。ロンドンのトルコ移民の惨状を取り入れた「堕天使のパスポート」(02年、英)の脚本家スティーヴ・ナイトによるストーリー運びが冴え渡る。ヒロインが駆る古いバイクや男たちが着用するアルマーニのブラックスーツなど、細かい小道具にも味がある、見ごたえある一本。
ある体験から、危険を省みず自ら組織のテリトリーに飛び込んでいく勇気あるヒロイン、ナオミ・ワッツをはじめ、登場人物が大いに立っている。中でもフランスの人気者ヴァンサン・カッセル演じるマフィアのボスの倅がいい。偉大な父の元でコンプレックスを感じつつ虚勢を張る姿はどこか共感を呼び、結末にも深い味わいを与えている。レストランの地下ワイン庫におけるヴィゴ・モーテンセンとの会話シーンは、この役者ならではの魅力を感じられる名場面だ。
さて、問題の格闘アクションについてだが、これは予想以上に優れたもので、これのみに期待して劇場に行ってもよいくらいの大見せ場だった。裸でいるときに、革コートを着込み武装した大男複数に襲われることがどんなに恐ろしい状況か。生物としての根源的な恐怖といってもいいこの圧倒的不利の中で、ヴィゴ・モーテンセンは必死に応戦する。だがやがて皮膚をナイフでスパっとやられ、血がドクドクと噴出し、そして……。
見ているだけで痛みを感じるこのファイトシーンの結果は、ぜひ劇場でご確認いただきたい。この場面の過激さのせいか、R18指定をくらってしまったので、少しばかり大人の女性を連れて行ってあげると、きっと喜んでくれるのではないだろうか。