『春よこい』50点(100点満点中)
2008年6月7日(土)より全国ロードショー 2008年/日本/カラー/108分/配給:東映
監督:三枝健起 原案:中村 努 キャスト:工藤夕貴、西島秀俊、吹石一恵

逃亡犯を父親に持つ少年の、変わらぬ親子愛

実話を基にした映画というのは、元ネタが強力な吸引力を持っている場合がほとんどで、よほど下手をうたなければそれなりに見られるものになる。──だが同時に、傑作レベルに昇華させるには相当な手腕が必要となる。

佐賀県唐津市の小さな漁港で猟師を営む尾崎修治(時任三郎)は、あるとき偶然人を殺めてしまい、そのまま逃亡する。それから4年、残された妻(工藤夕貴)と息子(小清水一揮)らの消えぬ苦しみを知った新聞記者(西島秀俊)は、これを苦労談として記事にするのだが……。

元となった話というのはこういうものだ。逃亡犯を父に持つ少年がおり、その子は毎年指名手配犯のポスターが貼られるたび交番にやってくる。そしていつまでも写真の父を眺め、「また今年も会えたね」とつぶやく……。

そんなわけで映画のほうも、この少年と父親の再会が最大のクライマックスとなる。子役の小清水一揮の演技などは最高で、これはもう涙なしには見られない。

事前の期待度を考えるともうそれだけあれば十分で、私としては満足したわけだが、冷静になって全体をみれば決して傑作というほどではない。なにしろ演出が古い。逃げる夫へ工藤夕貴が「アンタァ〜〜」と叫ぶ顔を真正面から映すとか、夜中の海へバカヤローと叫ぶとか、いつの時代の映画ですかと問いかけたくなる。

むろん、そんなありふれた場面をあえて挿入した演出意図はわからぬではないが、これでは気恥ずかしすぎて特に若い人はついていけまい。

佐賀の漁港の素朴な雰囲気が味わえるご当地映画として決して悪くはないのだが、元のお話がいいだけに、このへんをもう少し何とかしてくれたらなお良いのに、と思わずにはいられない。



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