『長い長い殺人』60点(100点満点中)
2008年5月31日(土)よりシネマート六本木ほか全国ロードショー
2007年/日本/カラー/ビスタ/ステレオ/135分/配給:WOWOW/エスピーオー
原作:宮部みゆき 監督:麻生学 キャスト:長塚京三、仲村トオル、谷原章介、平山あや
"財布が主人公"の宮部みゆきミステリを映像化
日本を代表するミステリ作家、宮部みゆき。その文章は比較的癖がない方だが、彼女はときおり強烈な変化球を投げる。本作の原作『長い長い殺人』もそのひとつで、11章立ての連作短編はすべて誰かの"財布"による一人称で語られる。各短編の主人公が異なるだけでも難しい構成だが、それが全部無生物の財布というのだから驚かされる。
ひき逃げ事件で死亡した男には、妻(伊藤裕子)を受取人とした3億円もの保険金がかけられていた。妻には愛人(谷原章介)がおり、その婚約者(西田尚美)も殺されていた。見るからに怪しすぎる二人は一躍マスコミの寵児となるが、二つの事件当時、彼らには鉄壁のアリバイがあるのだった。
すわ、交換殺人かといったところだが、この一連の事件の背後はもっと入り組んでおり、巻き込まれた私立探偵(仲村トオル)と刑事(長塚京三)らが謎を追う。ロス疑惑を髣髴とさせるワイドショー報道の加熱ぶりには苦笑する。
原作・映画版ともにアリバイ崩しから入る正統派のミステリだが、なんたって語り部が財布。もちろん、ポケットの中にいるときはまわりの音しか聞こえない。逆に自分の中に何かが入れられたときは暗闇でも正確に把握する。そうした特性をもった"証言"の積み重ね(刑事の財布、目撃者の財布、等々……)で、やがて事件のすべてが見えてくる。推理小説としては大胆な試みといえるだろう。
だがこのあたり、映像だとさすがに徹底することはできず、時折財布くんのナレーションが入る程度となっていて残念。財布の証言ならではの不完全性、あるいは正確性を生かした推理過程を楽しむことはできず、普通のミステリドラマにちょっぴりアクセントをつけた感じ。ただ、探偵の財布のしゃべり方などは、えらく可愛くて癖になりそうだ。
もともとWOWOW放映用に作られたためか、一部出演者の演技がテレビ向きでうそっぽい。それが作品の質を火曜サスペンスプラスアルファ程度に押しとどめている。最後のアクションなんかも相当テキトーだ。
ただ、それでもお話じたいが面白いし、連作短編集である原作よりすべての流れがつながっている様子が把握しやすい。謎解きミステリを好きな人なら普通に楽しめる。