『幻影師アイゼンハイム』60点(100点満点中)
THE ILLUSIONIST 2008年5月24日(土)より日比谷シャンテシネ、シネマート新宿ほか全国ロードショー 2006年/アメリカ・チェコ/109分/配給:デジタルサイト/デスペラード

天才奇術師はハプスブルグ家を騙せるか

実在の人物や事件を大胆に織り交ぜた『幻影師アイゼンハイム』は、この時代のもろもろが好きな人にはたまらない魅力がある。

長きにわたり隆盛を誇ったハプスブルグ家も斜陽にさしかかった19世紀末のオーストリア、ウイーン。天才イリュージョニストのアイゼンハイム(エドワード・ノートン)のショーを観に、皇太子レオポルド(ルーファス・シーウェル)が許婚のソフィ(ジェシカ・ビール)とやってくる。出し物に参加させるためソフィを舞台にあげたアイゼンハイムは、彼女がかつて自分とかけおちを誓った幼馴染だと気づく。

さて、アイゼンハイムは身分の差により引き裂かれた彼女との恋をずっと忘れられずに生きてきた男。一方ソフィも、傲慢なDV男のレオポルドとの政略結婚などイヤイヤ。今でもアイゼンハイムだけを愛している。キツい監視下で再び互いを求めあう二人だが、その先には過酷な運命が……。

この悲劇のロマンスが主人公の奇術により、幻想的なミステリーへと変貌する。後半に起こる事件によって生まれる、アイゼンハイムの最高傑作イリュージョンに隠された秘密がひとつの見所となる。

ややステレオタイプなあらすじだし、大柄なジェシカ・ビールはこの手の時代物にはどうかなという先入観があったが、まったく違和感はなく、気持ちよく見られた。

ただ、主人公の手品の数々をVFXによってあまりに洗練した見た目にしてしまったのはどうかと思う。現実にはありえない動き、奇術ばかりで、原作を読んでいない観客にはこれがトリックなのか、それとも本物の魔法(という設定)なのかすぐにはわからない。

狙ってその辺をあいまいにしたのかは知らないが、このおかげで映画のいわんとするテーマがボケてしまったのは否めない。たとえ終盤のハラハラドキドキを犠牲にしても、最初からバラしてしまった方がよかったのではと思う。映画の中でどんなに凄い手品を見せても、観客が驚くことは無いのだから、きっぱり割り切って別の工夫を凝らしてほしい気がする。

とはいえ、こうしたジャンルにおける撮影地の定番、プラハの風景はさすがに美しく、また美術も優れている。格調高い時代ミステリを味わう楽しみは十分に与えてくれる。



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