『Mr.ブルックス 完璧なる殺人鬼』70点(100点満点中)
MR.BROOKS 2008年5月24日より、渋谷Q-AXシネマほか全国ロードショー 2007年/アメリカ/120分/配給:プレシディオ

ケヴィン・コスナー演じる殺人鬼の正体は意外なことに……

ここ7、8年ぱっとしないケビン・コスナー(「ボディガード」(92)「ダンス・ウィズ・ウルブズ」(90)など)は、『羊たちの沈黙』のハンニバル・レクターに匹敵する個性的な殺人鬼キャラをなんとかこの作品で誕生させ、自らも表舞台に返り咲くべく並々ならぬ意気込みで挑んでいる。

殺人依存症ともいうべき快楽殺人犯ブルックス(ケヴィン・コスナー)は、万全の準備と慎重さで今夜も手際良い殺人を成功させた。だが、現場となった被害者の寝室の窓が開いているのを見て自分が致命的なミスを犯したことを知る。案の定、成功した実業家としての顔も持つブルックスのオフィスに、後日犯行時の写真が送られてくる。

冷静で完璧な殺人者が、一人のカメラ小僧に追い詰められながらも反撃を狙うサイコサスペンス……といいたいところだが、本作はそんな月並みな展開にとどまらない。製作もかねるケヴィン・コスナーは、山ほどある類似のシリアルキラーものとは一線を画す、サービス精神旺盛なめくるめく脚本によって、この映画を一味もふた味も違ったものにさせることに成功した。

ケヴィン・コスナー演じるアール・ブルックスという殺人鬼の設定が面白い。美人の妻と娘を持ち、良好な関係を築く誠実な男で、スーツをぱりっと着こなす社長でもある。たまにひとごろしをする以外は最高のパパだ。

この、ひとごろしの金持ち父さんはしかも二重人格で、名優ウィリアム・ハート演じる別人格の紳士マーシャルとのやりとりも中々の見所。「早く殺そうぜ」とマーシャルが四六時中あおると、そのたびブルックスが嫌々をする。彼が見落とすような小さなミスを、マーシャルおじさんがカバーすることもある。ダンディでナイスな殺人鬼コンビである。

その手口は、ドアに傷一つつけぬ穏やかな侵入方法や銃弾まで回収する用心深さなど、惚れ惚れするほどに完璧。優秀なビジネスマンの仕事をみているようで、男の観客なら密かに憧れの気持ちを持ってしまうようにできている。下見はちゃんとやり、時間は守り、深追いはしない。その規律正しさは大いに見習うべきものがある。って、凶悪犯に学んでどうする。

デミ・ムーア演じる女刑事が捜査にあたるが、この人物も映画一本で使い捨てるには惜しい魅力を持っており、ケヴィン・コスナーがシリーズ化を念頭においているのもうなづける。

フィクションらしい多少のご都合主義もあれど、だからこそ出来る二転三転のストーリー。ケヴィン・コスナー、ウィリアム・ハートら出演陣の魅力もたっぷり。これはなかなかの掘り出し物といえる。



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