『チャーリー・ウィルソンズ・ウォー』70点(100点満点中)
Charlie Wilson's War 2008年5月17日(土)より、日劇1ほか全国ロードショー 2007年/アメリカ/97分/配給:東宝東和
トム・ハンクスの新作は、世界を変えたエロ代議士のお話
"事実は小説より奇なり"というが、こと政治テーマにおいてはその"小説より奇なる事実"さえ、疑ってかかる必要がある。
ときは80年代の冷戦時代。テキサス州選出の民主党下院議員チャーリー・ウィルソン(トム・ハンクス)は、女と麻薬に目がない不良代議士。ただ、テキサス男らしいおおらかな性格で、どこか憎めない男だった。ある日彼は、巨乳ギャル二人を含む4P状態のジャグジーで、ソ連が侵攻したアフガニスタンの悲惨な現状を知る。
さて、そのニュースで何かに目覚めたチャーリーは、セフレでパトロンの大富豪夫人(おまけに反共闘士の)ジョアン・ヘリング(ジュリア・ロバーツ)のツテでパキスタン大統領に謁見。アフガンの戦士たち(=ムジャーヒディーン)がソ連の重武装ヘリに対抗できる強力な武器を必要としていることを知る。幸い国防委員会の重職に就いていたチャーリーは、強引に予算をぶんどり、やり手のCIA局員(フィリップ・シーモア・ホフマン)の力を借りつつ信じられない方法で武器弾薬を調達し始める。
その具体的な手腕はぜひみてビックリしてほしいところ。いい忘れたがチャーリー・ウィルソンは実在の人物で、(一応)実話という事になっている。とはいえ、国防丸秘に関わる事項を多数含むので、もとより裏は取りきれない話。「衝撃の事実」の信憑性は見る人任せ、といったところだ。
個人的には、イラン・コントラ事件(同時代のレーガン政権による国際武器売買スキャンダル)を元にどこかの小説家が考えたような話だと感じたが、さらに突飛な展開だけに何ともいえない。
なお大事な点として、当時の国際情勢をよく知らぬ人には、この映画の「いったいどこが凄い話なのか」さっぱりわからないであろうことを伝えておきたい。
パキスタン、エジプト、イスラエル、アフガニスタン、そしてもちろん米ソ両大国。これらの国々の関係、宗教による対立についてあらかじめ知っておく事は、本作を堪能するための最低条件。どことどこが味方で、どこと仲が悪いのか。それが基礎知識としてない場合、チャーリー・ウィルソンのしたことが、いかにとんでもない事か理解できない。
それ自体がブラックジョークというほかない状況のためか、作風も穏やかなコメディ調となっている。内容のわりには、ヘビーな政治映画という雰囲気はない。よってトム・ハンクス作品らしい人間ドラマとしても、なんとか楽しめなくはない。
ここ最近の米国政治映画といえば、当然自己反省型の範疇から外れないという鉄則が発動中だが、本作が興味深いのは戦い自体は否定せず、そのやり方がまずかったんだよね、と語るところ。
知ってのとおり、チャーリー・ウィルソンが支援した当時のムジャーヒディーンには若きオサマ・ビンラディンも参加していたといわれ、その後成長?した彼らは9.11テロ事件を起こした(とされる)。映画の中でCIAらが供与した世界最高性能の米国製携行型地対空ミサイル、スティンガーを彼らがぶっ放すシーンはこの上ない皮肉である。
これについてこの映画は、「中途半端なトコでやめたからいけない。最後までコミットしないとだめだ」と主張する。これは、失敗したと言われるイラク戦争の戦後処理についてのほのめかしなのか。あるいは先日原油のドル決済を完全停止して、アメリカのアキレス腱をチクチク刺激し続けるイランとの次なる戦いについてなのか。
いずれにせよ民主党支持で知られるトム・ハンクス(製作も兼ねる)とジュリア・ロバーツの主演映画でこういう主張が見られたのは面白い部分であった。