『ひぐらしのなく頃に』10点(100点満点中)
2008年5月10日(土)より、池袋シネマサンシャイン・渋谷Q-AXシネマほか全国公開 2008年/日本/カラー/106分/配給:ファントム・フィルム
大ヒット同人ゲームがついに映画化
爆発的人気を誇る原作の同人ゲームを未プレイのままこの実写版を見た私は、終映後になってもいったいこの話の何が面白いのか、さっぱりわからなかった。「いや、コレから初めて原作全部(ゲーム8本)やれば面白いんですよ」と映画会社の人はいうが、それならゲームだけやればいいじゃないかと正直思った。
人里はなれた雛見沢村に越してきた主人公・前原圭一(前田公輝)は、人懐こい同級生の女子らの存在もあり、楽しい学園生活を送っていた。だが奇妙な夏祭りの風習や、それに伴う異様な失踪事件が毎年起こっている事実を知ると、彼女らも含めた村人が自分だけに重大な何かを隠しているのではないかと疑心暗鬼になっていく。
今考えてみると、「ゲーム全部をやれ」という映画会社の人の話は当たっていた。少なくとも公式サイトで体験版として無料ダウンロードできる映画版の原作「鬼隠し編」だけでもやっておかないと、これだけ見る意味はほとんどない。いや、それでも結局は不十分(鬼隠し編は問題編・導入部のごとき位置づけになっているため)で、解答編にあたる続編や、さらに残された謎が解けていくその後の続きもやらないと、結局は気がすまない事になるだろう。
問題はその"火付け役"となるだけの魅力が、この実写版にはないということ。私は批評を書かねばならないので、必死に調べたり人に聞いたりしたが、映画版だけを見てそこまで興味を持つ奇特な人はあまりいまい。
サウンドノベルである原作の魅力のひとつは、萌え萌えな学園ラブコメだと思っていたものが、話が進むに従い妙な違和感を感じるようになり、やがて残酷描写アリのまるで違ったジャンルに変貌する恐ろしさにある。その緩急のつけ方のうまさ、さらには全編にしかけられたある趣向も、プレイヤーに驚きをもたらした。
ただ映画の場合、残念ながら後者には類似の前例が山ほどある上、この映画の出来自体がイマイチなのでほとんど驚くには値しない。レナの名台詞には、退屈で眠りつつあった観客を呼び覚ますビックリ効果があるし、一段目の真相が明らかになる際の演出もよいのだが、それだけでは……といったところ。ジャンル急変の恐怖、という点についてならば、映画ならもっとうまくやれるはずだと思うのだが。
二段目以降の真相(主に舞台世界の謎)についても、映画ならではの伏線やヒントがちりばめられているが、そもそもその答えは次回以降にならないと明かされないので、これは完全にゲームクリア者向け。映画の中では、謎の9割くらいはまったく手付かずのままだ。原作を知らぬ人には「何にも解決になってねーよ」となるのがオチだし、かといって真相をすべて知ったら「そんなのわかるわけねーよ」となる、そういう作品だ。「正答率1%」というコピーがついているが、厳密に言えば間違いなく0%だろう。
結局のところ、未プレイの方には「無料ではじめられるゲームの方をどうぞ」としかいいようがない。一方クリア者の観客(現実にはほとんどこちらだろう)には、美少女揃いの3次元ヒロインをたっぷり吟味していただきたい。その場合は私の評価は低すぎるという印象を受けるだろう。
いずれにせよこの映画は「ひぐらしのなく頃に」ワールドのほんの一部にすぎず、単独で評価できるような代物ではない。採点困難の最たるものであった。