『軍鶏 Shamo』25点(100点満点中)
Shamo 2008年5月3日(土)より、新宿トーア、シアター・イメージフォーラム他全国ロードショー 2007年/日本・香港合作/105分/PG-12/配給:アートポート

親殺しの優等生が、少年院で空手の修行

橋本以蔵原作・たなか亜希夫画による、一風変わった格闘漫画『軍鶏』は、事実上の香港映画としてより珍妙な仕上がりとなった。

裕福な両親のもと名門私立高校にかよう成嶋亮(ショーン・ユー)は、受験のストレスに耐え切れなかったのかある日突然両親を惨殺する。亮は少年院でも、世間を騒がせた親殺しと軽蔑され猛烈なイジメを受ける。このままでは殺されると悟った彼は、終身刑の囚人で空手の達人・黒川(フランシス・ン)のもとで猛特訓。自衛する能力を身に着けようとする。

個人的に原作漫画の中で圧倒的に面白いと思うのは少年院編で、その後のリーサルファイトや中国編はイマイチ、ダンサーがでてきてちょっと復活したかな、といった感じ。映画版では、リーサルファイト(K-1みたいな格闘イベント)のスター、菅原直人(魔裟斗)と主人公が対決するまでを描いている。

この作品の主人公は救いようのない犯罪者・悪党で、あるのは猛烈な生存本能のみ。たとえ実力では劣る相手に対しても決して諦めず、どんな汚い手を使ってでも勝とうとする。その人物造形はなかなか新鮮で、勝負の厳しさを妥協なく描くことで、しぶとくサバイバルする主人公を読者は痛快な思いで見ることができる。

倫理的には悪でも、生物的には決してそうとはいいきれない。そのあたりが共感を呼ぶわけだ。軍鶏のように死ぬまで戦う姿からは、平和な現代日本に生きる我々が忘れがちな大事な何かを学ばされる思いだ。

ただ映画版は、こうした基幹部分に変更が加えられており魅力半減。原作第一巻に見られる異様に吸引力あるストーリー運びも見られず、ダラダラとしている。

格闘シーンは普通のアクション映画風だが、やや大味でトンデモ映画の域を出ていない。落ちたら死ぬところでチンニング(懸垂)をしたり、アナボリックステロイドを静脈注射したり(正しくは筋肉注射。インスリン等一部の薬剤はまた別)と、アホ度はかなり高い。

最強のライバルを演じる現役格闘家の魔裟斗は、さすがに動きに関しては非の打ち所がなく、スクリーンで見ても無駄のない体さばきに惚れ惚れする。さすが、セリフの読み方以外は超一流である。映画は全編日本語吹き替えだが、一番必要なのは魔裟斗じゃないかというツッコミはくれぐれも禁物だ。とはいえ、そのセリフじたい全部で3つほどしかなく安心してよい。ここは脚本家のナイスプレーといえる。

原作のテーマを見失ったために、単なる陰気くさいB級格闘映画になってしまったのは残念。原作どおり藤原紀香(映画化ならこの人以外ない)の○○○シーンがあったりしたら、きっと大きな話題を呼んだと思うが、それを願うのはさすがに無理か。



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