『パーク アンド ラブホテル』55点(100点満点中)
2008年4月26日(土)より、ユーロスペースにてロードショー 2007年/日本/カラー/111分/配給:マジックアワー

ラブホテルの屋上にちっぽけな公園が?!

カンヌ、トロントに並ぶ世界三大映画祭のひとつベルリン国際映画祭(08年)で、日本人初となる最優秀新人作品賞を受賞した『パーク アンド ラブホテル』は、熊坂出(くまさかいずる)監督の長編デビュー作。

ポラロイドカメラを手に街を徘徊する家出少女(梶原ひかり)は、ホテル街で奇妙な光景を目にする。古びた和風のラブホテルに、似つかぬ子供たちや老人が次々と入っていくのだ。好奇心から彼らについていった彼女は、その屋上に手作りの公園が存在し、人々の癒しの場となっていることを知る。

デパートの屋上にプレイランドがあるのは昭和らしい風景のひとつだが、ラブホの上に公園というのは聞かない。とくに地方の感覚では、高速の出口付近などもともと辺鄙なところに建つものであるから、これほど奇妙な取り合わせはないだろう。住宅地と繁華街が混在する建物密集地にホテル街が存在する都市部ならではの発想といえる。

ラブホテルの女オーナー(りりィ)が管理するこの"解放区"に引き付けられるかのように、何人もの寂しい女たちが集まってくる。先ほど書いた家出少女や、夫とぎくしゃくする主婦(ちはる)、そして毎回違ったオトコをひきつれてくる女の子(神農幸)。誰もが病的な要素を持っている。そんな彼女らとオーナーの交流を描く人間ドラマだ。

ぶっきらぼうだがどこか寂しげなオーナーを、歌手としても活躍するりりィが好演。若い女性客の共感を誘うであろうセラピスト的存在となっている。

個人的には、ラブホテル内の様子がほとんど描かれぬ点が残念。どろどろした現実そのものである部屋の中と、それを超越した異世界たる屋上の公園。この二つを対比させるものとてっきり思っていたのだが、肝心の「室内」が抜け落ちている分、ドラマも表層的にとどまってしまった感がある。

ラブホテル経営者がなぜ公園を作るに至ったか。映画の中でそれが明かされるのは、現実と異世界がリンクする瞬間であり物語のハイライト。あらかじめ現実のドロ感を強調しておく事で、その効果・感動もアップすると思うのだが。

そんなわけで全体的に、奇抜なファンタジーで終わってしまっているのが残念だが、こうした新鮮なアイデアを、主目的たる「人間を描く」ことにうまく利用できるようになったら、この監督は相当凄い映画を作るようになるだろう。次回作が楽しみな逸材である。



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