『スパイダーウィックの謎』75点(100点満点中)
The Spiderwick Chronicles 2008年4月26日(土)より、全国ロードショー 2008年/アメリカ/96分/配給:パラマウント ジャパン
ゲームブックやファンタジー小説でおなじみのモンスターが
『スパイダーウィックの謎』は、やたらと大風呂敷を広げたがるファンタジー映画が多 い中、身の程をわきまえた堅実なつくりの好編。小学生くらいの子供たちはもちろん、 TRPGやゲームブック世代のファンタジーファンにもすすめられるいくつかの要素を持っ ている。
双子の兄弟ジャレッドとサイモン(フレディ・ハイモア二役)、そして姉のマロリー (サラ・ボルジャー)。彼らは母親と4人で森の奥の屋敷に引っ越してくる。そこは行 方不明になった大叔父スパイダーウィックが残した家で、彼の娘にあたる叔母も今では 離れたサナトリウムで一人暮らしている。そんなある日ジャレッドたちは屋根裏で封印 された本を発見。「決して読むな」との忠告を無視してページを開くと、周りに本物の 妖精が姿を見せ始める。
普通、読んでほしくない本に「読むな」なんて書くバカはいないと思うが、そこはそれ。 アドベンチャーとはいつだってこうして始まるのがお約束。典型的なロー・フ ァンタジー(現実世界にファンタジー要素が表れるもの。これに対し「指輪 物語」のように100%架空世界での物語をハイ・ファンタジーと呼ぶ)だ。
ところでここでいう妖精とは、そう聞いて私たちが真っ先に思い浮かべるティンカーベ ルのような羽根付き巨乳美少女の類ではない(その手のも出てくるが)。むしろドラゴ ンクエストに出てくるモンスターに近く、主人公ら3人姉弟は大切なあるアイテムと家 族を守るため、剣と魔法で必死の戦いを繰り広げる。
そして本作が優れているのは、ロー・ファンタジーとしての分をわきまえた厳 密な作中ルールから決してはみ出さぬことで荒唐無稽さを抑えた点。現実感 を失わずにスリルを盛り上げることに成功している。舞台は洋服ダンスの裏に広がる無 限の雪国……とはいかず、森の中の家から徒歩10分圏内のこじんまりしたもの。だがそ の中で、十二分に目くるめく冒険が広がっていく。
剣と魔法といったってほんのささやかな、覗けば普段は見えない妖精が見えるリングと か、その程度の品物が出てくるに過ぎない。力のない子供たち3人組は、伝説の勇者で もなければ突然パワーアップするスーパーアイテムも持ち合わせてない。果たしてあの 凶悪な敵ボスをどうやって倒すのか、最後までハラハラさせられるだろう。
もうひとつ伝えておきたいのは、本作に出てくるモンスターが、すべて伝統的なヨーロ ッパファンタジーに即したものであること。ゴブリンやホブゴブリン、グリフィンにト ロールといったおなじみの名前は嬉しい限り。かつて翻訳モノのファンタジー小説や ゲームブックの挿絵を見てワクワクした世代の子供心を刺激するだろう。
作品オリジナルの、聞いたこともないモンスターキャラが出てくるファンタジー映画に 鼻白んだ経験のある向きには、そんなわけでこの作品は特にオススメである。