『プルミエール 私たちの出産』85点(100点満点中)
LE PREMIER CRI 2008年4月19日、シャンテシネ他にてGWロードショー 2007年/フランス/98分/配給:クロックワークス、コムストック・グループ

出産とはかくも感動的なのか

『プルミエール 私たちの出産』は出産ドキュメンタリーだが、撮影しているのはフランスのイケメン監督である。

映画は、出産に詳しい人ほど度肝を抜かれるショッキングなシーンからはじまる。メキシコのある30代女性が挑んだ、世にもびっくりな出産方法。これを皮切りに、カメラは5大陸10カ国の女性たちのさまざまな「生み方」を追う。

10人を順に見せるわけではなく、あちこちに飛びまくるので誰が誰だかわからなくなりそうだが、各人の出産はなんとも個性的でバラエティに富んでおり驚かされる。

ジル・ド・メストル監督は、かつてテレビの仕事で同テーマを扱った際あまりに感動して、長編映画として再度追求したいと考え、本作を手がけた。日本と違って立合出産が普通のフランス人らしい情熱ともいえるが、それを抜きにしてもこれを作ったのが男性というのは、妙に納得できる部分がある。

大概の男というものは、出産よりも妊娠までのアレコレに興味を持つものだが、実際に生命の誕生に立ち会って涙を流すのはむしろ彼らの方である。女は痛くてそれどころじゃねーんだよという声もあるが、出産の不思議、神秘を前に圧倒されるのは男性の側というわけだ。

『プルミエール 私たちの出産』がすばらしいのは、この男性ならではの謙虚な姿勢、つまり女性に対する尊敬の念が深く感じられる点にある。厳かで叙情的な音楽をバックに繰り返される誕生、そして死。これらを真正面から見つめ、記録したジル・ド・メストルの偉業を、私は素直に称えたい。

とくに、彼のナチュラルバースへの肯定的な視線に私は強く共感する。

監督はベトナムのマンモス産院における一日120件以上の病院出産や、帝王切開をはじめとする医療介入についても描いている。だが、彼がそれよりも見せたいのは、自宅で友人に囲まれながらそのときを迎えるアメリカの女性や、日本のある産院における伝統的なお産についてだろう。

この産院は愛知県にある吉村医院といって、自然なお産を考えている人なら誰でも知っている。妊婦は併設する日本家屋で出産まで昔ながらの家事労働を行い、会陰切開や陣痛促進剤といった医療介入を一切行わず自然分娩する。その成功率は、多くの専門医が驚愕するほどだ。

かつて運動指導の専門家だった立場から一言申し添えると、吉村先生が提唱する家事労働は、きわめて理にかなった安産運動である。スクワットのボトムポジションに似た家事中の姿勢は、股関節の柔軟性を高め、全身の神経伝達機能を高める。これは、テンションを逃しながらいきむ出産時の呼吸法を会得するためにも重要なことでもある。

私がもし妊婦を運動指導することがあるとしたら、検診結果を見ながら妊娠8ヶ月くらいまでは、スクワットなどこの姿勢を取り入れたウェイトトレーニングと長時間のウォーキング(速度は遅め)をやらせるだろう。リズミカルなウォーキングは骨盤位(逆子)を防ぐ特効薬でもある。ちなみに欧米の女性ボディビルダーの中には、臨月まで300キロのレッグプレスをやった猛者もいるそうだ(くれぐれも真似せぬよう)。

『プルミエール 私たちの出産』を、私は出産経験のある女性、または男性(連れ合いが出産したという意味)にオススメする。とくに、日本の病院出産こそ"最高で普通のもの"だと疑わぬ人たちに。

とても感動的で、繰り返し見たくなる映画。2008年ゴールデンウィークのイチオシとしたい。



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