『大いなる陰謀』70点(100点満点中)
LIONS FOR LAMBS 2008年4月18日(金)より日劇1他全国ロードショー! 2007年/アメリカ/92分/配給:20世紀フォックス映画
ロバート・レッドフォードらしい社会派政治ドラマ
ここ最近、政治的なアメリカ映画が多いのは、ひとえに今年が大統領選挙の年だから。その意味では、それらの政治映画がことごとくプロパガンダであるという見方は決して間違ってはいない。
将来の大統領候補と目される共和党の上院議員(トム・クルーズ)は、執務室に旧知のジャーナリスト(メリル・ストリープ)を呼び、アフガンにおける対テロ戦争の新作戦について極秘情報を交え語り始める。彼女に独占スクープをプレゼントしようというのだ。おなじ頃、あるリベラルな大学教授(ロバート・レッドフォード)は、最近授業に出ない優等生に、その理由を問いただしている。さらに同時刻、教授のかつての教え子二人が、いままさにアフガンで新作戦に出撃しようとしていた。
時差のある三箇所での物語が、絶妙に絡み合いながら同時進行する政治ドラマ。きわめて会話量の多い社会派ものだ。ハリウッドきってのリベラル映画作家で俳優のロバート・レッドフォード7年ぶりの監督作品で、かなり露骨に自身の政治的立場を表明したものになっている。
このサイトを毎週読んでいる方ならご存知のとおり、ここ最近の戦争を扱ったアメリカ映画としては定番の自己反省ゴメンナサイもの。あの国では、大きな戦争の合間には、かならずこうした内容の映画が連発される。今がまさにその時期で、やがてそのうち米軍バンザイ映画が目立つようになると、次の戦争がおきる(あるいは起きている)。ハリウッドの作品傾向とアメリカの政治は密接に連動している。だからアメリカの政治映画は面白い。
特にこの作品では「責任を取ること」の大事さと覚悟の重さについて、繰り返し述べられる。劇中、保守派の代議士に論破されるメリル・ストリープの姿は、911後に"過ち"を犯したリベラル派言論人および国民の立場をそのまま表している。このシーンで思わず絶句したメリルが、最後に墓地を見ながら見せる表情(とその意味)は必見ポイントである。
その上で「さて、君たちはドーする?」といわんばかりのラストシーンは、まさにレッドフォードからの問いかけそのもの。じゃあとりあえず選挙にでもいくか、となればまずはオッケーだ。
派手な見せ場が少なくとも、登場人物同士の論戦は見ごたえがあり、個人的には大いに満足した。アメリカ人が今何を考えているのか。どこへ行こうとしているのか。どちらもこういう社会派ドラマに私が期待する要素だが、なかなかに伝わってきたと思う。3人の主演スターも期待通りの存在感と演技を見せ、ファンを喜ばせる。
あらゆる局面において、「何を考えてこんな場面、台詞を作ったのか」物語の背後を考えながら見ると、相当に楽しめるだろう。アメリカに興味のある方にオススメの一本だ。