『クレーマー case1』30点(100点満点中)
2008年4月12日(土)より、キネカ大森にてロードショー 2008年/日本/カラー/81分/配給:アートポート
理不尽なクレーマーに、私生活に入り込まれる恐怖
『クレーマー case1』と『クレーマー case1』は、その名のとおり"クレーマー"の恐怖を描く作品。それぞれ独立した映画だが、同じ映画館で同日公開される。ちゃんと順に見られるよう、上映スケジュールも組まれている。……が、タイトル以外互いの関係があまり無いのでその意義は薄い。
ある製菓会社のお客様相談室。クレーム処理担当の継村(柏原収史)は、不良品を訴える男からの電話を受ける。後日返品されたペットボトル飲料の中には、混入するはずの無い大量の不気味な虫が漂っていた。明らかに異常なクレーマーだと判断されたが、その後も男の行動はエスカレート、ついに継村の自宅にまでその手は及ぶのだった。
理不尽なクレーマーが、知るはずの無い自分のプライベートに襲い掛かる。これほど恐ろしい話は無い。平凡な企業戦士が主人公とあって、感情移入のしやすさも抜群、うまい舞台設定だ。それらを素直に生かしたこの『case1』は、サスペンスとしてはまっとうなつくりで評価できる。
ただ惜しむらくは、クレーム対策室のベテランにしては、主人公にあまりに不自然な対応が多すぎること。これは金子大志監督その他スタッフの、おそらくは予算=制作期間の制限によるリサーチ不足によるものだろう。私はかつて消費者団体で似たような電話を多数処理した経験があるが、本当のクレーム処理係はあんな応対はしない。感情の起伏も激しすぎる。平たく言えば、煽り耐性が無さ過ぎる。通常、あの程度で客に怒鳴り返すなんて事は絶対にしない。
こうした作品は、こちらの想像を上回るほどプロフェッショナルなクレーム処理係のキャラを造形できるかどうかが鍵。そのためには、リアリティを感じさせるディテールの積み重ねが肝要だ。
そして、その頼もしい主人公をさえ制御不能な恐怖に陥れるクレーマー、という構図を作らないと、観客が引き込まれることも怖がることも無い。人は絶対的なはずのものが崩れ行くとき、恐れを抱くのだ。
だからまずはその根幹をしっかりさせないと、その後疑心暗鬼にとらわれ身内まで疑う主人公の行動に説得力が生まれない。むしろ見ているこちらが「まあ落ち着け」と一声かけたくなってしまう。サスペンス映画において、観客のほうが冷静でどうするのだ。
アイデアが良かっただけに残念だったが、これを糧に次回はもっと頑張って欲しい。心から応援する。