『クローバーフィールド HAKAISHA』60点(100点満点中)
Cloverfield 2008年4月5日よりTOHOシネマズ六本木ヒルズ他全国ロードショー 2008年/アメリカ/85分/配給:パラマウント ピクチャーズ ジャパン
NYの未曾有の大災害を記録した奇跡のホームビデオ映像
徹底した秘密主義で公開まで突っ走ってきた『クローバーフィールド HAKAISHA』。もしあなたがこの映画を映画館で楽しみたい なら、少しでもネタバレを食らう前に見に行く必要がある。
もともとこれ、アメリカでは今年2008年の1月に公開されたもの。超話題作『トランスフォーマー』上映前の匿名予告編を皮切りに、 インターネットやマスメディアで大いに煽り、社会現象的イベントとして仕掛けられたものだ。
映画は、米国防総省がニューヨークのセントラルパークで回収したビデオカメラに入っていた映像を再生するところから始まる。 この映像は、もともとある青年の送別会を収めたホームビデオ。どうやら重ね撮りしたようで、パーティー映像の下には何やら若 い男女のラブラブなビデオも録画されている様子。だがしかし、じつはテープの後半には、誰もが目を覆うような大カタ ストロフィーが偶然記録されていたのだ……。
映画の本編=「回収されたホームビデオ映像」ということで、この大事件の説明や解説が途中で入ることは無い。ビデオの中に出 てくる若者同様、観客もわけわからず巻き込まれていく擬似体験型ムービーだ。
小さなビデオカメラを手持ちで、しかもパニックに陥った素人が撮影しているので、手ぶれがかなりひどい。事前にそのような噂 を聞いていた私は、亀有駅前にある巨大映画館の最後尾に座し挑んだ。その作戦は大正解だったが、前方の列にいる人にも途中退 場者はおらず、思ったより「酔う」事はないようだ。とくに日本人は、画面の中で唯一ブレない字幕を読んでいる時間が 長い分、有利といえよう。
というかこのカメラマン氏、ビデオの操作も知らない生まれて初めての撮影にしては、その腕前はプロ級である。未曾有の大被害 にあいながらも決してカメラを捨てて逃げようとせず、目前まで危険が迫っているのに映し続ける。イラクの戦場カメラマンだっ て、こんな信念と勇気は持ち合わせていないだろう。ピューリッツァー賞にふさわしい逸材である。
しかも、重要なシーンになるとなぜか手ブレがなくなり、バッチリ被写体を映してくれる。どうやら本番に強い 豪胆なタイプでもあるらしい。逆に言うと、ブレてるシーンは無意味なつなぎみたいなモノなので、酔いやすい 人は安心してその間視線をはずしていればよろしい。親切この上ない撮影だ。
しかし悲しいかな、わずか数ヶ月とはいえ諸外国での公開が先行したため、私の必死の努力も報われず、大勢の人がすで にネタバレを食らっていることだろう。これが○○による大災害を描いた映画だと、○○の部分を知っている方 にとっては、本作はほとんど何の新味も意外性も感じられない、平凡な出来である。素人映像に最新鋭のVFXという組み 合わせは新鮮だが、それだけのことだ。
そんなわけで、○○の意味がわからぬ人のみ、なるべく後部に位置する座席を予約した上で楽しんでいただくとしよう。何回も通 いつめて原因解明のヒントを拾ってくるもよし、そのヒントをウェブで検索してアチラが用意したサイトに行き着くもよし、ある いは数年前にNYを襲ったあの大事件に重ね合わせて奥深い解釈をするもよし。