『モンゴル』50点(100点満点中)
MONGOL 2008年4月5日(土)丸の内TOEI@、新宿バルト9他全国ロードショー 2007年/ドイツ、ロシア、カザフスタン、モンゴル/125分/配給:ティ・ジョイ/東映 共同配給

≪浅野忠信がチンギス・ハーンを演じる50億円歴史大作≫

浅野忠信は外国映画にも積極的に出演する個性派俳優だが、本作もカザフスタンほか4カ国の合作映画。彼の主演映画としては最大級の大作(製作費50億円)で、受賞は逃したがアカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされた。

中身はチンギス・ハーンの主に若者時代を描く歴史スペクタクルで、浅野は主人公のテムジンを演じる。考証は念入りになされたそうだが、奴隷として長く監禁されていた説を採用した点は新鮮。

台詞は全編モンゴル語で、上手いかどうかは正直さっぱりわからないが、少なくとも周りに溶け込んでおり違和感はない。ヒロインにも典型的なモンゴロイド顔の新人女優を使うなど、このあたりは徹底している。

エキストラ1000人を集めた合戦シーンなどアクションの見せ場も少なくない。バタバタと主人公が敵を切り倒していく姿は勇ましく、血しぶきが舞う殺陣も本格的。リアリティにこだわった画面作りがなされている。

ハートランドたるモンゴルを制覇したチンギス・ハーンに憧れる映画人は少なくないようで、最近でも『蒼き狼 地果て海尽きるまで』(06年)がコケ、いや華々しく公開されたのが記憶に新しい。同ネタを扱った作品としては、あまりに公開間隔が短いため、この二つが比較されるのは避けられまい。

全編日本語という、斬新かつ向こう見ずな手法で作られた後者には、反町隆史というカリスマ性ある役者が主演した。娯楽性を高めてある分、華やかさではあちらが圧倒的に上。浅野テムジンはみるからに地味で、存在感の上では反町どころか敵のジャムカ役スン・ホンレイにも負けている。

負けるといえばこの映画、あらゆる面で誠実におふざけなしで作られているのに、戦争時には、時折アホかとおもうような戦術が出てきたりするので困る。戦略的にも顔的にも、これでは勝てる気がしない。

この映画のチンギス・ハーンは、感情に流されることなく、自らの信念、ルールに基づき人生の駒を進める。妻が敵に妊娠させられても、生まれた子を我が子として存分に愛す。散々苦しめられた相手を倒してくれた男でも、それがルール違反であれば許さない。その一貫した厳しい態度こそが混乱を治め、世に秩序をもたらした。大いに考えさせられるところだ。



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