『うた魂(たま)♪』80点(100点満点中)
2008年4月5日(土)よりシネクイント、シネ・リーブル池袋、新宿ジョイシネマほか全国ロードショー!! 2007年/日本映画/120分/配給:日活

≪女子高生とヤンキー合唱部の対決≫

『うた魂(たま)♪』を見ていると、映画なんてものは普遍性を追求するばかりが能ではないとつくづく感じる。ときには時代を切り取るような、フレッシュだが賞味期限の短いものが何より心に届く事もある。

北海道のとある高校。合唱部リーダーのかすみ(夏帆(かほ))は、自分のルックスと歌声に陶酔するちょっと勘違いな女子高生。ところがある日、憧れの生徒会長(石黒英雄)から歌唱中の表情を「産卵中のサケみたい」と笑われてしまい自信喪失。退部を決意する。

素直なのかバカなのか?! 絶妙な性格設定のヒロインが魅力的な青春学園合唱ドラマ。合唱という「誰もが経験してるけど、好きな人はほとんどいない」題材選びもまた、絶妙だ。

田中誠監督(『タナカヒロシのすべて』)は、間の取り方が上手い監督で、この作品に出てくるシュールなキャラクターたちを自在に操り、思わず噴き出してしまう場面を量産する。主演の夏帆が、奇跡的とも言うべき名コメディエンヌぶりを発揮し、期待に応える。この女優、どうみても美少女なのに、その顔の"ヘンさ"で笑わせる。バカ笑顔という言葉がこれほど似合う人もいない。今後何本シリアスドラマに出ても、天下一品バカ笑顔の印象を払拭するのは困難を極めよう。

さて、落ち込んだそのヒロインを元気付けるのは、ライバル学校のヤンキー合唱部。長ラン姿にポマードべっちょりのリーゼント。いまにも赤テープ同士でタイマン張りそうな風貌だが、実は熱いソウルを持ったいいヤツばかり。もちろん(?)全員が尾崎豊信者で、合唱会では『15の夜』を歌う。合唱とオザキ、とても食べあわせが良さそうだ。ちなみに、何気なく高校生を演じているゴリの実年齢は35歳である。観客の皆さんとしては、心の中で思い切りつっこんであげよう。

余談だが、本作には薬師丸ひろ子が『OH MY LITTLE GIRL』を歌うシーンがある。監督が切望しただけあってこれはなかなか聴かせる。心にじんとくる、オススメポイントのひとつだ。

ただ、『うた魂(たま)♪』は、コメディとしてあまりに優れているために、終盤の優等生すぎるつくりが浮いている。前半のおバカ度の高さで乗り切ってしまえばもっと良くなったはず。ヤンキー合唱部が歌う尾崎ソングの数々も、マジメに撮りすぎて迫力がまったくない。こわもてな見た目と誠実な合唱の落差を出したかったのだろうが、観客はこの時点ですでにその事は十分知っているので必要ない。ここは思い切り映画的に盛り上げるべきところだった。

尾崎豊やX JAPANに関する小ネタが目立つところを見ると、30代を重点的に狙う作品であることは疑いない。逆に、金か夢かわからない暮らしを経験した事もない10代の若者が見たら、笑いどころがかなりズレていると感じるだろう。この高得点は、年齢が対象内の人限定、とご理解いただきたい。



連絡は前田有一(webmaster@maeda-y.com 映画批評家)まで
©2003 by Yuichi Maeda. All rights reserved.