『受験のシンデレラ』70点(100点満点中)
2008年3月29日(土)より、新宿K's cinema、シアターN渋谷他ロードショー 以後全国順次 2007年/日本/35mm/106分 配給:大風
本格受験指南ムービー
『受験のシンデレラ』は、異業種監督が最初に作るべき映画の見本のような作品である。
東大合格率第一位の名門予備校のカリスマ教師・五十嵐(豊原功補)は、あるとき末期がんで余命1年半の宣告を受ける。絶望の最中、彼はコンビニで貧しそうな少女・真紀(寺島咲)と出会う。レジでの消費税計算において、真紀に数学的センスを見出した五十嵐は彼女に向かって言う。「お前は人生を変える気はないか?」
格差社会の最底辺ともいうべき、貧しい母子家庭の高校中退の少女を、日本一のカリスマ教師は人生最後の生徒に選んだ。チャンスは一回のみ、1年半後の東大合格に向け、500円コイン一枚の授業料で、二人の無謀な挑戦が始まる。
監督の和田秀樹といえば、日本一有名な大学受験アドバイザー。名門灘高で落ちこぼれるも、独自の勉強法を編み出し東京大学最難関の理3(医学部)に現役合格した受験界のカリスマだ。多くの受験生が最後に使う"赤本"(過去問題)を、むしろ最初に開けと提唱した、合理性の塊のようなその勉強法は、30代以下の人にはよく知られているだろう。
実はずっと映画を作りたかったと語る彼は、初監督作ながら「芸術面」を追求する(多くの映画人がハマりやすい)強烈な誘惑に屈することなく、自分のできることのみに特化した身近な娯楽作品を作った。その勇気と戦略性こそは大正解で、結果的に彼以外には(とくに専門の映画監督には)到底作れない、ユニークな"本格受験指南ムービー"が出来上がった。
受験をネタにスポ根を目指したようなこの映画。さわやかな感動と興奮はもちろん、忌々しい格差社会の下層から抜け出したい人に絶大な勇気を与えてくれるシンデレラストーリーとなっている。
しかもその手法は決して絵空事でなく、監督の経験に裏づけされた具体性がある。劇中登場する参考書類は実在するものであり、和田本を読んだ人ならわかる「受験のテクニック」も満載。大学や高校を目指す若者やその親たち、あるいは資格試験を考えている人がこの映画を見たら、力強く背中を押してもらえるだろう。
格差社会、受験、そして末期癌に対する緩和ケアという最新医療。本作が扱うこの3つのテーマは、受験の専門家で医師でもある和田秀樹の独壇場。さすが数々のベストセラーを出してきただけあり、自分の引き出しの中の何を見せれば観客に受けるかという点をよく理解している。こういう、空気が読める上に頭のいい人が作った映画は、例外なく面白い。
技術面では、まだまだ荒っぽい部分が見られるが、そんなことどうでも良くなるほど素材にパワーがある。異業種監督の映画作りとは、こうでなくてはならない。
あまりに面白くて、これを見ると和田秀樹の受験テクニック本のひとつも買いたくなる。いやはや、憎らしいほどに商売上手なことよ。