『カンフーくん』20点(100点満点中)
2008年3月29日、新宿ガーデンシネマ他全国ロードショー! 2008年/日本/96分/配給:角川映画
「ニュー幸楽」で泉ピン子とカンフー少年が大暴れ
『カンフーくん』は、他チームなら4番打者になれる逸材ばかりをスタメンにそろえながら、まったく勝てなかった一時の巨人軍のような映画である。
中国の少林寺。8歳ながら天才的な才能で南ピン拳の免許皆伝に迫るカンフーくん(チャン・チュワン)は、修行最後の相手が日本にいると師匠から言い渡される。早速日本の下町にやってきた彼は、中華料理店「ニュー幸楽」の泉ちゃん(泉ピン子)と偶然出会い、居候しながら探すことに。しかし彼らは、日本の支配を企む黒文部省の陰謀に巻き込まれてしまう。
本作には、面白くなる要素が(この予算規模から考えたら)奇跡的といえるほど多数集まっている。
まずは、「幸楽」の名称の使用許可と泉ピン子の出演を得られた幸運、さらにチャン・チュワンという名子役、そして本場香港でも活躍する一流のアクション監督・谷垣健治の存在と、枚挙に暇がない。
とくにチャン・チュワンは、得意のカンフーはもちろん、「ハッスル」3/17興行ではプロレスタッグマッチを無難にこなしたほどの器用さを持ち合わせたなかなかの演技派。
おまけに矢口真里、桜塚やっくん、インパルス・堤下敦、西村雅彦といった特徴的なキャストも顔を並べている。これだけでも、見るからに何かが起きそうな雰囲気がある。
だが、そのことごとくが有効に使われることなく、本作は失速する。
なんといってもこの作品には、せっかくのネタを活かすユーモアのセンスがない。
たとえば中華料理店「幸楽」といえば、国民的人気ドラマ『渡る世間は鬼ばかり』の舞台として、圧倒的な知名度を誇る"日本一有名な中華料理店"。しかもその主演女優・泉ピン子もいる。ここはそのパロディをいくらでも織り込める状況だし、簡単に笑いが取れるのにそれをしない。
これでは『カンフーくん』の舞台が「ニュー幸楽」でなくとも、あるいは女優が泉ピン子でなくとも、おそらく内容は大して変わらないだろう。
となると、「なら最初から使わなくてもいいじゃん」となってしまう。これでは万全とはいえぬ体調を押してアクションまでこなした泉ピン子にも、元ドラマにも失礼な話ではないか。いったいこの監督は、泉ピン子と「幸楽」を使って何をしたかったのか?
また、小学校のクラスに当たり前のように矢口真里が着席している場面があるが、シュールでオイシイ設定なのに笑いに生かせない。低身長だからといって、25歳の矢口に小学生役をやらせている滑稽さをなぜもっと利用できないか。
むしろ、演じる矢口の方がそのあたりを理解しているようで、コメディ演技については文句なし。モー娘。はバラエティ番組で場数を踏んでいるため、こういう役柄なら安心してみていられる。
さらに後半には、アイドルとは思えぬムチムチした肉体を存分に動かし、いいアクションを見せている。それだけに、その半端な扱いが余計にもったいなく感じた。
結局のところ、こうした問題は監督らの笑いのセンスの有無に帰結する。子供向け健全番組にしようとするあまり、中途半端に優等生的な作風としたのが間違いで、結果的にとてつもない大爆笑を生み出す金の卵を腐らせてしまった。