『The FEAST/ザ・フィースト』85点(100点満点中)
FEAST 2008年3月22日(土)、シアターN渋谷、新宿ジョイシネマ他にて全国順次ロードショー 2006年/アメリカ/86分/R-15/配給:(株)アートポート
上級者ほどいなされる「過去のどの作品にも似ていない」ホラー映画
ホラームービーを大好きなアナタがこの『ザ・フィースト』を見ると、予測を裏切る展開の数々に感心することになるだろう。
舞台はテキサスの片田舎のしょぼくれた一軒家のバー。ここに突然、ショットガンを抱えた男が血相を変えて飛び込んでくる。文字通り血まみれのその男は、急いでバーを封鎖しろと怒鳴る。今しがた外で正体不明の怪物に襲われ、しかもすぐそこまで迫っているというのだ。
登場人物全員と観客は、こうして唐突に命がけのサバイバルバトルに巻き込まれ、わずか86分間の上映時間すべてを、ハラハラドキドキしてすごす事になる。少しも迷いのない、楽しい化け物ムービーだ。
決して大きくない予算規模で、しかもやりつくされたこの手のジャンルの最新作『ザ・フィースト』最大にして唯一のウリは、ホラー上級者を欺くことに徹した脚本。
ちなみにこのストーリーは、ハリウッドの人気スター、マット・デイモンとベン・アフレックによる脚本コンテスト企画でみごとグランプリを獲得したもの。以前「超映画批評」でも紹介した人間ドラマの佳作『夏休みのレモネード』と同じ企画のアレだ。日本公開第二弾が、よりにもよってB級スプラッターホラーとは、冗談としか思えぬ激しい落差である。
さて、その具体的内容はぜひ見ていただくとして、この「フラグが立ったと思ったら裏切られる」感覚はなかなか痛快。たまたまバーに集まっている登場人物を一人一人テロップ立てで紹介する遊び心ある演出さえも、上手い形でそれに利用される。
冒頭にこの"フラグ裏切り"を連続させることで鑑賞者の間に緊張感を発生さえ、その後のやや平凡な展開をさえ予断を許さぬ恐怖度満点のそれに変えている。じっさい、出だしをカットして後半だけをみたらこの映画、鑑賞後の評価はガクンと落ちるはずだ。そういう意味では、歴代のホラー作品をよくリサーチした、努力の跡が伺える脚本といってよい。
ユーモアあふれる会話には味があり、恐怖をやわらげてくれる。そう、この映画は怖いのだが、笑える箇所も数多い。
また、怪物自体を極力登場させないあたりも、予算の節約とリアリティ向上の一挙両得。あらゆる点で、アイデアと工夫の勝利だ。
なお「既存のホラー映画に似てないものを作った」という部分が強調されて宣伝されているようだが、それさえも有利に作用している。実際にはいくらリサーチしたところで(むしろすればするほど)、どれにも似ていない作品を作るのは困難だ。ただ「もしかするとそうかもしれない」と観客に思わせる事ならできる。この映画はその錯覚を、上手く恐怖感の増幅に利用している。
少なくとも、毎年大量生産される同種の作品とは一線を画す個性派といえる。過剰は期待は禁物だが、散々出尽くした今の時代でもがんばればこれだけやれると思わせてくれる点で、希望に溢れた一本といえるだろう。