『Sweet Rain 死神の精度』60点(100点満点中)
2008年3月22日(土)、丸の内プラゼール他全国ロードショー 2007年/日本/113分/配給:ワーナー・ブラザース

伊坂幸太郎の魅力全開! だそうだ

いまや映画界で大人気の作家・伊坂幸太郎の連作短編集『死神の精度』が、ついに実写化された。映画化を何度も断り続けた伊坂氏が、金城武主演ならと承諾したとのこと。結果、"Sweet Rain"というイカす題名がついた、見事な珍作に仕上がった。

不慮の死を遂げる人間の前に現れ、7日間の観察のあと、実際に死なすか否かを決める死神のチバ(金城武)。今回の対象は、27歳のネクラなOL藤木一恵(小西真奈美)だ。いつもは迷わず"実行=死"を選択するチバだったが、あまりに薄幸な彼女の姿を見て、ほんの少し"見送り=生かす"へ心を動かされる。

ファンにとって念願となる傑作の映画化は、伊坂ワールドの魅力全開! と喧伝されている。B級ラブコメくずれが伊坂ワールドだと言うのなら、まことに的確な表現である。

私が皆さんにおくるアドバイスは、これを見る際には打率3割のギャグ、乱暴なつくりのCG、金城武の壊滅的な日本語台詞力を覚悟した上でどうぞ、ということだ。その3つをクリアした上で原作の存在を忘れてしまえばこの映画、決して悪くない。最後のが一番難しいというツッコミは禁句だ。

序盤、オーバーサイズのジャケットを着ている小西真奈美を見て、違和感を感じる人は多いはず。こうした服装の違いや髪型、コインランドリーの設備、ポータブルオーディオ、CDショップのヘッドホンなど、それとなく時代設定を匂わす演出をみて、私も少しは期待した。

だが最終話で、物語上何の存在価値もないロボット女が出てきた瞬間、これはダメだと確信した。伊坂幸太郎らしい巧さ、センスの良さなど微塵もない。

狙ってこの珍妙さを作り上げたのなら、相当な才能というほかない。私が死神ならこの映画の筧昌也(かけひまさや)監督には迷わず"見送り"を宣言し、次回作を任せてみたい。



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