『映画 クロサギ』30点(100点満点中)
2008年3月8日、全国東宝系にてロードショー 2008年/日本/カラー/120分/配給:東宝
2時間スペシャルで十分では?
夏原武&黒丸による同名人気漫画を原作としたテレビドラマ『クロサギ』は、詐欺師が詐欺師を騙す斬新な設定が人気を呼び、06年のTBSドラマとしては平均視聴率トップを記録した。終了後もファンから続編が待ち望まれ、その期待を受けての映画化となる。
詐欺犯罪を誰よりも憎む若者・黒崎(山下智久)の裏の顔は、詐欺師のみを専門に騙す"クロサギ"。今回の狙いは、贈答詐欺師の石垣(竹中直人)だ。だが、調べていくと石垣は、大企業のみを標的にするはずの詐欺師・白石(加藤浩次)や、知能犯担当の刑事・神志名(哀川翔)からも追われていた。やがて石垣の真の狙いは、日本経済を揺るがす大規模な詐欺犯罪にあるらしいとわかる。
普段より贅沢な予算と制作期間が与えられ、さあどんな映画にしようかと考えたとき、誰でも真っ先に浮かぶのが「ドラマ版じゃできない巨大な悪(敵)とのゴージャスな対決にしよう」というアイデア。おそらく、手軽に映画らしいスケール感を出せると期待してのことだろう。
子供向けアニメの映画版などは、たいていそのフォーマットで作られている。しかし、これこそ映画化において製作者が一番踏みやすい地雷だったりする。
「クロサギ」の主人公は、父親を罠にはめた実行犯らといつか対決する物語上の宿命を背負っている。ということは、それまでは誰と対戦しても基本的には勝つわけで、そういう意味ではこのドラマ、『水戸黄門』と同じだ。
だから視聴者は、別に日本を揺るがす巨悪なんぞが登場しても、その敵の強大さ自体に関してはスリルを感じない。凄腕の剣客が出てきても、黄門様が負けるかも、なんてハラハラするヤツが一人もいないのと同じだ。むしろ風呂敷を広げた分、話の組み立ての難易度が格段に上がり、結果として(ただでさえ少ない)リアリティが失われ、余計にマンガチックになってしまう。
そのへんを許せるドラマファンならそれでもよかろう。だが、この映画版は一見さん大歓迎な作りになっている。そしてその視点からすると、見るに耐えない子供だましというほかない。
『クロサギ』の世界観はきわめて魅力的であり、力のある脚本家(チーム)に十分な時間と報酬を与えれば、いくらでも面白い話を思いつくはずだ。映画版の潤沢な予算は、むしろそういう方面に振り分けるべきだろう。
現在進行中の時事問題を絡めてみるとか、本格的なリサーチを行って(規制の多いテレビメディアじゃ採用されにくい)詐欺犯罪のリアリティーを高めた物を作るなどすれば、ドラマ版とは一線を画す、大作映画らしい剛性ある物語ができただろうに、じつにもったいない。
毎年恒例の子供アニメ劇場版のごとき安直な映画化なら、テレビの二時間スペシャルで十分。これでは「映画を見たい」人には、ちょいとすすめられない。