『泪壺』55点(100点満点中)
2008年3月初旬より銀座シネパトス、K'sシネマほか全国順次公開 2007年/日本/110分/配給:アートポート

小島可奈子がすべてを脱ぎ捨てる

脱ぐか否かのボーダーラインにいる女優さん(および関係者)にとって、どうせ裸を見せるなら文芸作品で……、と考えるのはごく当然のこと。見る側にとっては、映画のジャンルなんてどうでも良いのだが、オンナノコには納得できる理由を与えてやるのが大人の優しさというものである。

その理由として丁度いいのが、毎度おなじみ渡辺淳一原作もの。『失楽園』(97)の黒木瞳から『愛の流刑地』(07)の寺島しのぶまで、幾多の作品で主演女優の"体当たり熱演"が話題にされてきた。

この最新作では、写真集がバカ売れしている人気グラビアアイドル小島可奈子が、その系譜に連なることになる。しかも、監督はかつてピンク映画四天王の一人といわれた瀬々敬久(ぜぜたかひさ)。おのずと期待は高まる。

乳がんで亡くなった妻・愁子(佐藤藍子)の遺言により、夫の雄介(いしだ壱成)は彼女の遺骨で壷を作った。一方、愁子の姉・朋代(小島可奈子)は、結婚前からひそかに想っていた雄介への気持ちが、抑えきれないほど高まっている事に気づく。

妹が姿を変えた壷が見守る、禁断の愛の行方。小島可奈子はオクテで生真面目な性格が裏目に出て、行き遅れた姉を好演する。

佐藤藍子演じる妹が、あまりに堂々とした美女なので、これじゃコンプレックスにもなるだろうと思わせる。少女時代から仲の良かった姉妹だが、姉の朋代はなぜか割を食うことが多く、そして涙もろいのに決して涙をみせない。不器用な人なのだとわかる。

相手役のいしだ壱成は、筋金入りのヘタレ男を目を見張る表現力で演じきる。あまりに上手すぎて、なぜ朋代が惚れているのかさっぱりわからない。

しかしそんな事はどうでもいい。重要なのは小島可奈子がどうなのかであり、そちらは文句なしに期待に応えてくれているのだから。

私は評判の写真集は見ていないが、この映画を見てこの人はずいぶん綺麗な身体をしているなぁと驚いた。それはサイボーグじみた昨今の"美人"とは違うナチュラルな美で、誰もが好感をもつであろうと思わせるものだ。

不本意な相手に安っぽいジップパーカを脱がされると、そこからとんでもなく不釣合いな大きさのムネが飛び出す場面。珍しく超満員の某試写室にいた全員が、息を呑む音が聞こえたかのようであった。

こうした官能シーンは、瀬々敬久監督の真骨頂といったところだろう。ただ、男が腰をぴこぴこ振ってる姿は、映画の淡々とした流れからは完全に浮いていて、なんだか滑稽だ。

そんなわけでこの映画、小島可奈子という、とても綺麗な女優を堪能するに十分なできばえ。ファンは安心して前売り券をお求めいただきたい。



連絡は前田有一(webmaster@maeda-y.com 映画批評家)まで
©2003 by Yuichi Maeda. All rights reserved.