『ガチ☆ボーイ』85点(100点満点中)
2008年3月1日(土)、全国東宝系ロードショー 2008年/日本/120分/配給:東宝
全プロレスファンは必見
『ガチ☆ボーイ』は、プロレスファンなら絶対に良さがわかる、ぜひ見てほしい傑作ドラマだ。
大学のプロレス同好会に、見るからにひ弱な五十嵐良一(佐藤隆太)が入部を希望してくる。技の覚えも悪かったが、先輩たちの教えは事細かにメモをとり、暇さえあればポラロイドも撮る熱心さに、部員らもすぐ打ち解ける。やがて念願のデビュー戦、五十嵐は試合の台本を途中ですっかり忘れ、負けるはずの先輩選手相手にガチンコで勝利してしまう。騒然とする部員たちだったが、客は大うけ。五十嵐は客を呼べる人気レスラーの道を歩んでいく。
さて、ここまでのあらすじをみると、学生プロレスを舞台にした青春コメディかと思うだろう。しょっぱいダメ試合から始まるこの映画、じっさい前半はそんな感じだ。
ところがそれは後半への伏線で、終盤にいたると涙で前がみえなくなるほどの感動が押し寄せる仕組みである。
とくに最終試合の組み立ては、目を見張るほど上手い。映画のあちこちに張られた伏線が、プロレス試合の中でピタピタと回収され、大いに盛り上がる。このクライマックスは、近年のプロレス映画の中でも最高峰だと私は太鼓判を押す。
ちなみに私は、あの初代タイガーマスク佐山サトルが旗揚げした団体、リアルジャパンプロレスのコメンテーターをやっているほどのプロレス好き。その目で見ても、この映画の試合シーンは良くできていると思う。
それは主演の佐藤隆太をはじめとする役者たちが、一切の吹き替えを行わず、東北の人気団体みちのくプロレスの指導のもとでちゃんと練習してすべての技をこなし、受けているからに他ならない。もちろん、それを生かすカメラワークなど、スタッフの力も大きい。こうした演出を行った小泉徳宏監督らは、プロレスの魅力、とくにどう見せれば面白いかをよく理解している。
ただ、唯一蛇足だったのが、試合終了後の一連のシークエンス。あれは100%いらない。あの試合の終わり方は、プロレスの真髄を完璧に表したもので、佐藤隆太の表情も最高だった。あそこでエンドロールが流れてくればもう、いうことなしだったのだが。
とはいえ、『ガチ☆ボーイ』はプロレスの楽しみ方を知っている人にとってはたまらない一本。
かつて無名だったボブ・サップがアントニオ・ホドリゴ・ノゲイラを追い詰め(ノゲイラのフィニッシュホールド三角締めをパワーだけで打ち破ったとき、多くの格闘ファンは驚愕した)、最高のテクニックを持つアーネスト・ホーストを粉砕したことでわかるとおり、ガチンコ格闘技の世界では素人が試合を盛り上げる事も不可能ではない。
しかし、プロレスの世界でそれはない。長年の地道な練習と天性のセンス、時には身体を壊してでも飛び続けるひたむきな熱意とプロ根性がなければ、観客を盛り上げることは決してできない。強さだけを追い求めるワカモノにはわかりにくい、男の人生の縮図、そして美学がそこにはある。それを理解できる人は、ぜひ本作の公開劇場にも出かけてほしい。