『エリザベス:ゴールデン・エイジ』40点(100点満点中)
ELIZABETH: THE GOLDEN AGE 2008年2月16日(土)より日比谷スカラ座他全国ロードショー 2007年/イギリス/1時間54分/配給:東宝東和
苦悩する女王陛下
本作はアカデミー賞に多数ノミネートされた98年のイギリス映画『エリザベス』の、およそ10年ぶりの正統なる続編。監督・主演女優はじめ主だったメンバーは前作と同じ。
特定の人物にスポットをあてる歴史映画は難易度が高く、その対象によほどの愛情がなければ作れるものではないが、この映画の作り手たちのエリザベス一世に対するそれは相当なもの。女王陛下への10年越しのラブコール、その出来やいかに。
ときは1585年。イングランド女王エリザベス(ケイト・ブランシェット)は、いまだ気の休められぬ日々を送っていた。国内には対立するカトリックの強大な勢力があり、国外には列強が虎視眈々とこの国を狙っていた。最大の問題は従姉妹のスコットランド女王メアリー・スチュワート(サマンサ・モートン)で、エリザベスの正統性を問題にするものたちが彼女を担ぎ、女王の座を脅かすのだった。そんなときエリザベスは、野性味あふれる探険家で詩人のウォルター・ローリー(クライヴ・オーウェン)と出会い、決して成就せぬ恋に溺れていく。
前作のあと、女王として辣腕をふるう彼女が、やがて世界最強のスペイン無敵艦隊との決戦=アルマダ海戦にいたるまでを描く。弱小国だったイングランドとスペインが争い、やがて覇権国家が移り変わるダイナミックな時代だが、そのへんは上映時間に合わせ簡略化されている。
その代わりというべきか、航海士ウォルター・ローリーとの恋は情熱的に描かれる。国家と結婚したといわれ、処女王と呼ばれたエリザベスだが、実際には恋人が複数おり、しかもその行く末はみなキョーレツだ。だいたいこの頃のヨーロッパには、愛する相手も含めて処刑だ幽閉だと荒っぽい話がたくさんあり、ドラマのねたには事欠かない。
もちろん本作でも、そうした激しい恋の様子を垣間見ることが出来る。政治的な戦略もからむその解釈は、なかなか現代の価値観で図ることは出来ない。だが、シェカール・カプール監督は「愛をもとめた孤独な女王」としてこの人物を造形し、一般客が求めるものとの妥協を試みる。
ちなみに本作でエリザベスの恋人となるウォルター・ローリーは、アメリカ新大陸に渡り、ある土地に彼女にちなんだ名をつける。それが現在のヴァージニア州だ。
記念すべき出世作の続編となる主演のケイト・ブランシェットは、細い体に白塗り姿で苦悩する女王を熱演。10年の年月による変化というわけでもなかろうが、勇ましく男たちに命令しても、あるいは甲冑を身に着けても女王の威厳はさほど感じられないが、弱みを見せる恋愛パートでは適役ぶりを発揮する。
コスチューム・プレイとしては、ゴージャスな衣装やセット、実物大の船で撮影した海戦シーンなど大掛かりな見所がたくさん。とはいえ特筆すべき点はなく、よほどエリザベス一世の生き様に興味がある人でなければ、ただ空しく網膜から脳内を通り過ぎていくのみであろう。
徹底してエリザベスに注力した分、そのほかに魅力的な人物は登場しない。メアリー・スチュワートでさえ影が薄い。歴史でなく人物に興味を持つ人に向けたつくりの映画だから、この点にも不満が残る。